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第1031話
三条はそれを母親に手渡すと踵を返した。
「…先生に、知らせてくる。
いってきますっ。」
「ちょっと、電車あるの…っ」
「兄ちゃんのああいう所父さんにそっくり。
おもしれぇ。」
パタンと閉じられた扉に母親は小さく息を吐いた。
本当に父親にそっくりだ。
小さな頃は女の子によく間違えられていた。
くりくりとした目と日焼けしにくい白い肌がより女の子らしくみえたのだろう。
離乳食の頃から好き嫌いがなくなんでも美味しそうに食べていたが、それに反してあまり増えない体重に心配もあった。
一番子だ、右も左も解らず手探りで何がいけないのかと自責の念にかられたり、夫婦で悩む事も本当に沢山だった。
手のかからない子ではあったが、そういう面では1番悩んだ子だ。
あの頃は、父親の真似をして自分を“みーちゃん”と呼んでいた。
それが“母さん”になった時は少し寂しかった。
優登が産まれ弟ばかりを構ってしまって年長からは寂しい思いを沢山させた事だろう。
それなのに自分より大きなランドセルを担ぐ小さな兄は嫌がる事なく弟の面倒をよくみてくれた。
グズる弟も兄があやすととても喜んでいたのをよく覚えている。
今ではすっかりシスコン、兄弟揃ってその気があるのが少し心配ではあるが仲が良いに越した事はない。
中学に入学しても変わらず手のかからない良い子で反抗期がなかったのが今でも心配だ。
本人は反抗期がないからって死ぬ訳でもないし、と言って退けたが。
そして、高校に入学して推薦をもらって。
我が子が笑うだけで楽しかった、嬉しかった。
名前の通り、沢山の芽を息吹かせぐんぐん育ってくれた。
そんな息子の成長が嬉しくてたまらない。
「優登、お父さんに連絡して。」
「うん。
わかった。」
嬉しい筈なのに、ほんの少し寂しい。
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