1034 / 1273

第1034話

完全下校を過ぎた静かな校舎は騒がしい昼間とは真逆にしんと静まり返っていて不気味ささえある。 そんな校舎にパタパタと誰かの足音が木霊した。 段々と近付き、止まったと思えば準備室のドアがノックされる。 「はい。 どうぞ。」 「せんせ…」 「どうした?」 椅子を軋ませながら立ち上がり、傍に寄る。 連絡があってから随分と時間がかかってやって来たから外のにおいがする。 本数の多くない電車に手間がかかったのだろう。 マフラーに顔を埋めた三条は長岡の顔を見るとふと空気を緩めた。 「合格しました。」 一瞬の間があってから長岡は眉を動かす。 三条の言葉を何度も咀嚼する。 何度も、何度も。 言葉を身体中に巡らせ、止めていた息を吐き出す様に言葉を吐く。 「おめでとう。」 ありふれた言葉に三条はふわふわと花を咲かせた。 それは長岡が1等好きな顔。 そうか…、そうか…、と何度も嬉しそうな顔をして反芻する担任に生徒は小さく笑う。 「先生のお陰です。 ありがとうございます。」 深く頭を下げるその生徒にもう1歩近付くと肩を掴み、頭を上げさせた。 何がありがとうだ。 頑張ったのは遥登だ。 それが、報われた。 それが、芽を出した。 すべて遥登が頑張った結果だ。 「三条が頑張ったからだろ。 それに、こんなに冷えて。 少しあたたまりな。 風邪引いたら大変だ。」 残っていた他の職員からも祝福の言葉を受け、三条は恥ずかしそうにはにかんだ。 暖房器具の前に案内すると手を翳し、あったかい…と頬を緩める。 受験から解放され三条は久し振りに穏やかな顔になった。

ともだちにシェアしよう!