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第1037話

三条は助手席に座り、ハンドルを握る恋人を盗む見る。 見慣れた、乗り慣れた車だが、今日はなんだか何時もと違う。 セットされた髪も、きっちりと着込まれたスーツも特別格好良く見える。 それに加え、長岡のにおいの染み付いたコートをかけられドキドキと胸が早く打つ。 「車の中も寒いからな。 いくら合格したからって風邪引いたら大変だから着とけ。」 「先生が寒いです…っ」 「たまには先生らしい事させてください。 な?」 なんて、惚れ直してしまう事をさらりと言って退けた。 何時だって格好良い恋人だが、胸がときめいて仕方がない。 「なぁ、明日でも良いのになんで来てくれたんだ? 電車だって乗り継ぎ悪かったんだろ。」 「……1番に知らせたかった、から、です」 不意にかけられた声に三条は素直な思いを露吐する。 身体が勝手に動いていた。 そう付け足す。 語尾にいくほど小さくなる声に長岡は破顔した。 「マジか。 すげぇ嬉しいな。」 「…笑わなくても良いじゃないですか」 「笑ってねぇよ。 嬉しいだけだって。」 テールランプの明るい光が長岡の輪郭を縁取る。 秀麗な横顔がやわらかく砕けていた。 その横顔に喜悦した顔を隠す様に、長岡のコートに埋もれた。

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