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第1038話
隣で、両親に挨拶をする担任を眺めているとなんだが胃がキリキリしてくる。
担任の方が酷そうだが、そんな顔を微塵も見せない辺り流石社会人だなと思う。
さっきまで三条がくるまっていたコートを手に背筋をすっと伸ばし笑顔を称えたまま話す担任と両親の和やかな雰囲気が三条の胃をより痛くしていた。
「先生、ありがとうございました。
またこの子ったら突っ走って…。
どうぞ上がってください。
お茶淹れますので。」
「いえ、僕はもう失礼しますのでお気遣いなく…。
あの、合格おめでとうございます。
三条くんの口から直接聴けて嬉しかったです。」
「先生、寒いですから上がってください。」
「ありがとうございます。
お気遣いは嬉しいのですが、こんなご時世ですから…色々とありまして…」
父さんも母さんも寒いから上がる様に促すが、長岡は玄関に入っただけで上がる事は決してしなかった。
1人の生徒や家族と深く付き合えば不平等だと指摘されるのだろう。
そんな世の中で、担任はあんな事までして自分に思いをぶつけてきた。
それがどんな覚悟だったのか、やっと少し解った様な気がする。
ぽつりぽつりと、当たり障りのない担任の教師と保護者の話をして長岡は両親に頭を下げた。
「では、失礼します。
三条、本当におめでとうございます。
また明日学校で。」
「あ、はい。
ありがとうございました。」
玄関の外まで見送ると長岡は再度頭を下げて帰っていった。
遠ざかるテールランプをぽけっと眺めながら、改めて恋人の覚悟の深さを噛み締める。
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