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第1048話
「古今和歌612番、凡河内躬恒のうたです。
我のみぞ かなしかりける 彦星も あはですぐせる 年しなければ 」
カツカツとチョークが黒板を叩く音と、低く落ち着く声が静かな教室内に響く。
手元のノートから視線を上げるとセットされた髪がキラキラと光を反射していた。
綺麗な人はそんな事だけで目を奪う。
色が落ち茶気てきた髪をぽけっと眺めていると、和歌を書き終えた担任が振り返った。
「はい、じゃあ、何時も通り活用法確認していきます。
今日は…窓側からいくかな。」
教師の顔をした長岡は背筋がすっと伸びていて格好良い。
そんな人と付き合ってるんだなと何度も不思議な感覚に襲われるが、身体中あちこちを彩るマーキングのキスマークと歯型が現実だと笑う。
体育位でしか汗をかく事もなくなり肩口の噛み跡はそう痛みもしないが、それでも風呂に入ったり行為をしている時はヒリヒリと痛んだ。
もう慣れたその痛みは愛しささえある。
ノートの上の言葉の羅列は今も美しく、それを詠む人も綺麗で、この時間が好きだ。
そんな授業を三条は堪能する。
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