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第1054話

勉強もスポーツもそつなくこなす友人。 1度、三条に才能があるのを羨ましいと言ったら一瞬顔を曇らせた事があった。 どうしたかと聞くと、重々しくきちんと伝えてくれた言葉はきっとずっと忘れない。 「才能があるとか天才だとか、努力を殺す言葉だよなって思って…」 「…っ!」 そうだ 三条は才能だけじゃない きちんと努力をしてるじゃないか 自習の時間だって真剣に勉強してる テスト週間だって書図室で遅くまで… 俺は、何を言ってしまったんだ… 何の気なしに口から出してしまった言葉は時に人を傷付ける。 それも無自覚に。 それが友人であっても、親子であっても、深く抉る事だってある。 悪意なき言葉だからこそタチが悪い。 「ごめん…」 「かりかりくん食いたいな。」 「かりかりくん…?」 悪戯っぽく笑う三条に田上は疑問符を浮かべる。 「ソーダ味。 でも、田上のおごりならがっつりみかんも良いなー。」 「…しょうがねぇな。 どっちも買ってやるよ。」 「やった!」 そう言って三条は笑った。 羨むだけなら誰にだって出来る。 だけど、自分もそこへ並ぼうとするのは大変だ。 そこまで自分も走るのは大変な手間と時間が必要だから。 羨む気持ちがカタチを変え妬む気持ちに変われば…想像するだけでゾッとする。 自分はその一歩手前に来ていたのかも知れない。 「田上の奢りだと美味いな。」 「三条、」 「うん? 1口食う?」 「うん。 コーラ味も1口やるよ。 美味いな。」 屈託のない三条の笑顔は眩しくて、俺もつられて笑った。 三条に怒るという印象はまったくなかったけど、だからと言って心中怒ったり悲しんだりしてない訳じゃないんだ。 ちゃんと嫌な思いをして、心を痛めて、芯から笑う。 何時もにこにこしてるから気付かなかった。 「あ、焼き肉にすれば良かった。」 「破産するからそれだけは勘弁…」 「食べ放題に決まってんだろ。」 2本目のアイスに手を伸ばす無邪気な友人。

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