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第1058話
三条から貰ったコーヒーを一口飲むと、書き物の続きに手を付ける。
それにしても甘ったるいコーヒーだ。
でも、寒くてカロリーを欲しがる身体には丁度良い。
まして、あの体型なら尚更だ。
「長岡さん、今お話ししても大丈夫ですか?」
隣席の亀田は目尻の皺を一層深くして微笑みかける。
風邪インフル予防のマスクをした長岡は大丈夫ですと書き物をしていた手を止めた。
「今年も白菜いかがですか。
あたたかい日が続いて大きく育ってくれたんです。」
「ありがとうございます。
今年も鍋にして美味しくいただきます。」
「それから柚子もどうぞ。
風邪予防にはビタミンCです。
柚子の皮にはレモンの3倍のビタミンがあるそうですよ。
今、風邪なんてひいたら大変でしょう。」
「そうなんですか。」
それはすごい。
只でさえ柚子は汎用性が高いのに、栄養も優秀なのか。
柚子茶や柚子胡椒、柚子味噌、ぽん酢、漬け物。
香りを生かした、吸い口や天盛り。
食べる以外にも、柚子湯や化粧水。
アルコールに入れても美味いし、天然の芳香はそれだけでも気分がすっきりする。
それに、亀田の育てた甘い白菜で作った鍋を食べる時のぽん酢に絞ったらさぞ香りが良いだろう。
今から食べるのが楽しみだ。
そう伝えると亀田はゆっくり頷いた。
「長岡さんなら美味しく食べてくれますから、白菜も嬉しいでしょうね。」
元々亀田の育てた野菜は味が濃くて美味いが、あの笑顔と食べる事でより一層美味くなる。
昨年も鍋に入れた白菜が美味しいとしあわせそうな顔をしてよく食べていた。
思い出すだけで頬が緩む。
しっかりと締めなければ。
「そんな事は…。
でも、本当に美味しいので早速鍋にします。」
「ロール白菜にしても美味しいですよ。
この前、奥さんに作って貰ったんですけどお出汁で煮たのであっさりしてて柔らかくて美味しかったです。
歳をとってそういう物の方が美味しく感じるんですけど、若い方には物足りないですかね。」
そんな事はないと言うと長岡さんは優しいですねと笑うが、優しいのは自分の周りにいてくれる人達の方だ。
亀田も、村上も関川も、A組生徒達、そして三条も。
もし自分が優しいのだとしたら、それは周りに感化されたお陰だ。
そう思う。
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