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第1073話
明かりの付いた部屋に脚が早く動く。
手に持った袋もガサッと音をたてて部屋を急かす。
この瞬間のなんとも言えない気持ち。
嬉しい、恋しい、勿体ない、早くあの笑顔に会いたい。
ドアを開けると、漏れる光が陰を作った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。
正宗さん。」
「ただいま、遥登。」
ひょっこりと顔を見せた三条。
顔を出すとすぐに玄関先へとやってくる。
主人の帰りを待ちわびていた犬の様だ。
これだから盲愛してしまう。
「土産。」
受け取った袋の中を覗くとまだほのかにあたたかい箱に白髭のおじさんが笑っていた。
「フライドチキン!
ありがとうございます!
あ、ご飯出来てますよ。
食べますか?
それとも、先に風呂にしますか?」
三条が、長岡の顔を見ると優しい表情で見下ろしていた。
優しくて、穏やかで、とても格好良い。
お互い、午前中会っていた顔とはまったく違う穏やかな顔。
靴を脱ぐのもそこそこに小首を傾げる三条に手をのばした。
「まずは、ただいまのキス。」
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