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第1112話

「三条、はよー。」 「田上、おはよう。」 気心知れた友人の笑顔は何時見ても安心する。 山から吹く冷たい風が駅から出てきた生徒達にぶつかり、体温を奪っていく。 鼻先までマフラーを上げた三条は身を縮めながら駆け寄った。 「あけまして!」 「あけましておめでとう。 律儀だな。」 「1週間ならおめでとうだろ。 それにしてもさみぃな。」 今年は雪が少なく山に近いこの町も殆ど積もっていない。 去年の今頃はうんと積り1面真っ白だったのに、今年は地面が見えている。 母親の事を考えてると滑る危険が減って安心だが。 それでも足元の水溜まりには氷が張り、誰かが傘でつついた跡を残していた。 人波に合流し、ゆっくりゆっくりと歩き出す。 「さーんじょーくんっ、たーがみくんっ」 「お、吉田。 はよー。」 「おはよう、吉田。」 「おはよー。」 珍しく朝早くに顔を見せた友人は欠伸を噛み殺しながら隣にやってきた。 不規則なタイミングで水を飛ばす消雪パイプを避けながら学校を目指す 長岡が見たら本当に仲が良い3人組だな、と笑うだろう。 教室のドアを開けるとあたたかな空気と共にクラスメイトの声。 「おはよう。」 「3人組、おはよー。」 「はよー。」 この日常もあと数えるだけ。 数えられるだけになってしまった。

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