1130 / 1273

第1130話

トイレに向かって歩いていると、トンっと手に何かがぶつかった。 ふわりと冬のにおいに混ざるいいにおい。 誰かなんてすぐ解る。 一瞬目が合うと、その人は足早に過ぎていくから俺も追い掛けた。 4棟トイレでの逢い引きももう数えきれない位しているが、毎回ドキドキする。 怪しまれたらどうしようというスリルと、教師から恋人に変わる瞬間に。 するりと腰を抱かれ、更に心臓が跳ねた。 「勉強は進んでますか。」 「はい。 そこそこ、ですけど…。」 背後に感じる怪しい視線から逃れる様に個室のドアを真っ直ぐに見た。 そんな事お構いなしに長岡の指は肩口に付けられた歯形を思い出させる様に、ジャケットの上からなぞる。 テスト期間にはいり薄くなった歯形がもどかしい。 噛まれたい。 だけど、色恋だけに現は抜かせない。 「目標は?」 「え、と…現状維持、出来たら良いなと……」 現状維持。 出来れば1位のまま。 真っ直ぐに真面目な三条らしい答えに長岡の口角が上がる。 長岡は耳の後ろにちゅーっと吸い付き、耳縁を舐め上げた。 ねっとりと絡む舌にぞくっと快感が背筋を走る。 そう後ろの教師に躾られた。 「応援してる。」 「あ、りがとうございます。」 握り締めた手を長岡の大きな手が包んだ。 大きくて何時もより冷たい手。 その手の甲に長岡はちゅと唇をくっ付ける。 あ… 間接キス、したい チュ 「可愛い遥登。」

ともだちにシェアしよう!