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第1154話
暫く高速を走ると、下道に戻った。
田んぼを覆う雪の中を通り、山へと近付く。
次第に景色は木を多くし、いかにも温泉街と言った街並みに目を奪われる。
友人の住む村も一部は温泉街として栄えているが、一緒に遊ぶ時もそこにあまり立ち入る事はない。
端にあるたい焼き屋のカスタードクリームは美味しくてたまに寄るがそれ位だ。
言われてみれば修学旅行以外で観光地の様な場所に来る事は少ない。
山茶花の咲き誇る駐車場に車を停めると、長岡は少し散歩しようと車外に出た。
「え、正宗さん?」
「行くぞ。」
「あ、待ってください…っ。」
まさか車外に出るとは思わずワンテンポ遅れて三条も外に出る。
車を降りると寒さにツンと鼻の奥が痛んだ。
さむ…
…う、わ…
山茶花をバックにした長岡に一瞬息をのんだ。
真っ白な雪が真っ赤な姫椿の色を際立たせ、その色にも負けない恋人に胸が騒ぐ。
「本当に置いてくぞ。」
「はい…っ。」
雪の掻かれた道路の脇には電線や街路樹から落ちてきた雪が山になっている。
所々に山茶花の花弁が色を着けている道に人は疎らだが、やっぱり心配だ。
「大丈夫なんですか…。」
「多分な。
ま、こんな雪の多い山間部に来る受験生がいたらやばいけど。
そしたら、急いで二手に別れて巻くぞ。」
悪戯気に笑う長岡は身長が目立つからなと言うが、目立つのは身長だけではないと思う。
温泉饅頭が蒸かされる湯気がモクモクと立ち込め、甘味屋の看板に心が踊る。
それに、隣を歩く恋人の存在。
本当は、すごくすごく嬉しい。
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