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第1157話

『大切な人』 はじめて他人に三条の事を言った。 三条を表すたった数文字の言葉は、言葉にすれば呆気なく他人に伝わる。 だけど、大切だけでは言い表せない存在だ。 愛おしい。 自分が持てるすべてを擲ってでも守りたい。 大切な子。 盲愛する子。 もう自分の一部だ。 真っ直ぐにその子を見ると、マフラーに顔を埋めて空を眺めている。 何を見ているのか時々ああしてぽけっとしている。 何時も頭をフル回転させているから休ませているのだろうか。 ザクッと雪を踏み締めて1歩、1歩、確実に近付くと自分の人陰が視界に入ったのか此方を向いた。 その瞬間。 やわらかく変わる表情が好きだ。 「待たせたな。」 「おかえりなさい。」 雪景色に花が咲き乱れた。

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