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第1159話
「はい、着いた。」
「え、此処って…」
立派な門構えに三条は身構える。
大きな木板には達筆な旅館の文字。
美しくに剪定された庭木に、色っぽい椿の花が艶やかに迎えてくれた。
少し遠出をするだけだと思っていた三条は旅館の文字に慌て出す。
と言うか、日帰りでもなさそうだ。
車から降りた長岡は鞄を手に先を進む。
三条はシートベルトを外し、慌てて後を追った。
「遥登、こっち。
滑るから気を付けてな。」
「待ってください…っ。」
雪の掻かれた石畳は濡れて色を変えているが、それでも石の美しさは分かる。
玄関前で頭と肩に積る雪を払うと仲居が2人に気が付き中へと招き入れた。
やっぱり、2人で居るところを目撃されるとドキッとしてしまう。
恐るおそる長岡を見ると安心させる様に優しく微笑んだ。
玄関ホールもとても綺麗で、調度品や生け花ひとつとても品がある。
出されたスリッパに履き替え長岡の後ろを歩く途中、三条は中庭に目を奪われた。
1本の大木が雪の花を咲かせていた。
中庭も綺麗に手入れされ、どの木の枝も天に向かって力強く伸びている。
だけど、その中で一際存在感のある大木は静かにそこで根を伸ばしている。
あまりの衝撃に、空から白が咲く様子をじっと眺めていた。
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