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第1161話

仲居に先導され部屋へと向かう長岡の2歩後ろで三条は色んなモノを吸収し続けていた。 中庭にしんしんと雪が積もり静寂が辺りを包む。 高そうな旅館、厳かな空気に長岡も背筋が伸びた。 空間を彩る花ひとつとってもとても繊細で美しい。 空気まで色付いて見える程だ。 案内された部屋は瀟洒な造りでだらりと過ごすには少し肩に力が入りそうだが、隣に三条がいればそれで良い。 「では、ごゆっくりおくつろぎください。」 「ありがとうございます。 お世話になります。」 三条が深々と頭を下げれば、仲居は微笑ましく笑い去っていった。 パタンッ 襖が閉まった瞬間、三条は全身から力が抜け長く息を吐く。 「緊張しました…。 こんな高そうな旅館…。 それに、バレたらどうするんですか。」 「受験のご褒美。 三条のお陰で少し自信ついた気がするし、感謝も込めて。 あ、遥登、ここじゃ長岡遥登だからそれだけ反応してくれよ。」 「…はい。」 「なに照れてんだ?」 「……なんでもないです。」 視線を反らす三条の頬は赤くなり、照れているのだと丸解り。 コートを脱ぐ手を止めて、肉付きの悪い頬を挟むと此方を向ける。 「長岡さん」 「…………はい」 「ははっ、顔真っ赤。 そんなんじゃバレんだろ。 もっと自然に、な。」 小さく上下した頭にゆっくりと影を重ねる。

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