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第1189話

流石は旅館。 朝食も手間がかかっていて美味しそうだ。 朝風呂も済ませすっかり目の醒めた2人は向かい合って手を合わせた。 「いただきます。」 「いただきます。」 長岡が味噌汁を口にしたのを見届けてから三条も同じものを口にする。 胃があたたまると食欲が湧く……なんて事をしなくても朝からしっかり食事は摂れるのだがやっぱり味噌汁は美味しい。 出汁がしっかりと効いていて朝から贅沢だなぁなんて思えるから、自分は得な性格だ。 白飯を頬張りながら目の前を見ると、同じ様にご飯を口に運ぶ長岡と目が合った。 悪戯気に細められる目にどきっとする。 『遥登、愛してる。』 昨日の扇情的な長岡とダブってしまう。 歯型とキスマークに塗れた身体がじんと熱くなり、思わずよく噛みもせずにご飯を飲み込んでしまった。 気持ちを切り替える為にしば漬けを噛み締める。 「遥登、どっか行きたい場所あるか?」 「うーん、特には。 正宗さんと一緒なら何処だって楽しいですし。」 「本当に、そういうところだぞ。」 そもそも殆んど部屋デートで外に出ない2人にとって外デートをするだけで特別な事だ。 ただ、明け方までセックスをして昼頃起きたり、1日中くっついて本を読んだり引き籠って過ごす何時もに比べあまりくっ付けていない。 三条がそれを言っているのを長岡も理解しているのだが、そんな事を言われてグッとこない男はいない。 出汁巻きたまごは噛むとじゅわっと出汁が溢れて美味いのなんの。 母さんの出汁巻きも美味いが旅館の出汁巻きもまた違って美味い。 「どうぞ。」 「え…?」 「美味かったんだろ。」 自分の皿の上に増えた出汁巻きに驚くと、長岡は更に言葉を続けた。 「顔見てりゃわかる。 美味そうな顔してたからな。」 そんな顔をしていたのか、そして見られていたのか少し恥ずかしいな。 でも、俺も分かる。 「じゃあ、山菜の小鉢どうぞ。 美味しそうな顔してます。」 綺麗に整えれた眉を下げて笑う長岡に三条も笑うとありがとうと小鉢を受け取った。 そして一口食べてこっちの方が美味いと言う。 味なんて変わらない。 違うのは味じゃなくて、相手を思う気持ち。 それが嬉しくて、更に美味く感じるんだ。 だって、長岡が分けてくれた出汁巻きはさっき食べた物より美味しかったから。

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