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第1194話

テスト用紙を刷っていると印刷室に入って来た英語科教諭に、溜め息を飲み込んだ。 よりにもよって今刷り始めたというタイミングで…。 「長岡せんせ、バレンタインのチョコです。 どうぞ。」 「彼氏さんに怒られますよ。」 「やだ。 彼氏なんていませんよ。」 お愛想に気を良くした英語科教諭はわざとらしい笑顔を張り付けている。 いや、わざとらしく感じるのは此方に好意がないからだろう。 「そうなんですか。 意外です。」 「もぅ、お口が上手なんですね。」 あー… 天気良いな 帰りてぇ 隣でコピーをする男が他の事を考えてるとも知らず英語科教師は話を続けている。 「あ、長岡先生って甘い物大丈夫ですか?」 表示枚数はあと数枚。 一瞥すれば酷い顔をしているであろう自分の顔も見ずに楽しそうに話している。 三条は目を見て話すのにな。 三条は小さな表情の変化にも敏感なのにな。 比べるのは失礼だがそんな事を思ってしまう。 「ありがとうございます。 だけど、受け取れません。 僕の我が儘ですが、中途半端な気持ちで受け取りたくはありません。 お気持ちだけいただきます。」 丁度すべて吐き出された用紙を一纏めにすると頭を下げて印刷室を出た。 変に期待させるつもりもない。 それこそ興味がなかろうが、失礼だ。 長岡は英語科教諭を残して印刷室を後にした。

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