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第1197話
2月の最終週、隣家の梅の花が咲いた。
小雪だ、暖冬だ、飽きる程聞いたそんな言葉は春を早く連れてきた。
夕飯の買い物帰りに2輪の花を見付け、ほんの少し感傷的な気分になる。
「あ、兄ちゃん!」
「優登。
おかえり。」
「ただいま。」
ランドセルを担いだ弟もこの春、中学生になる。
そして、もう1人弟妹が増える。
嬉しくて寂しい春。
T.S エリオットの詩に4月は最も残酷な月だとあるが、その意味がまるで擦り傷の様に滲みる。
はじまりは終わりへのスタート。
たった2輪の梅に何を感傷的になっているのだろうか。
「兄ちゃん、今日の飯なに?
あ、パスタ!
俺、あのモッツァレラチーズ入ったトマトのやつが食いたい!」
兄の持ったエコバックの中を覗いた弟はスパゲティに笑顔を見せた。
勿論モッツァレラチーズも買ってきたと言えば、よっしゃ!と喜ぶ。
その笑顔に、さっきまでの感傷的な気分が少し行引っ込む。
「あとアボカドのサラダとほうれん草のスープ。」
「全部美味い!」
微かに感じる春の気配は知らん顔をするには大き過ぎる。
あと少し。
もう、少し。
先生の生徒でいられる。
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