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第1204話

相川はもう1度黒板をじっと見詰める。 淡く儚く、そして力強く花を咲かす桜は春を象徴する花だ。 北国の人がみんな待ち望む春の花。 嬉しくて、少し寂しくなる花。 それで埋まっていく見慣れた黒板は長岡の愛情で満ちている。 「あの、良ければ先生も描いてください。 生徒達もきっと喜びます。」 「そんな…駄目ですよ…っ。 こんな、大切な…、僕、画力が…その…あ、黒板消しをクリーナーにかけますから…。」 「こういうのは気持ちです。 お願いします。」 にっこりと微笑む長岡にチョークを手渡されキョドる相川は、おずおずとチョークを握った。 一体何時から描いていたのだろう。 爪にまで色を着け、こんな時間まで描き続けている。 それなのにやっと半分埋まった黒板。 相川は黒板隅にそっとチョークを塗り付けはじめた。 「む、むずかしい、ですね…」 「そうなんですよ。 普段チョークを擦ったりはしませんからね。 というか、絵なんてそうそう描きませんし。」 長岡も相川も手やスーツをピンクや黄色、青に染めて夢中で描いた。 生徒達の笑顔を思い浮かべながら、祝福の気持ちが届く様に。 青空に桜が咲き誇る中、最後に祝福の言葉が付け加えられる。 その文字を書く横顔はとても優しくて驚く位美しかった。

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