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第1231話
準備室には朝練指導で早くから出勤している先生方が既に居て、3学年がいないだけで日常が続いている。
「亀田先生、おはようございます。」
「おはようございます。
今日はあったかいですね。」
「はい。
コート置いてきました。」
「夜は冷えますよ。
早く帰らなくちゃですよ。」
世間話をしながら席に着き、今日のタイムスケジュールをさっと確認する。
春休みの課題を印刷して、午後からは書店さんが来られる。
頭の中で整理しながら、卒業式後プレゼントされたネクタイを締め薔薇の花束を抱えて撮ったクラス写真を写真立てに入れ、目の前に置いた。
パソコン横の特等席。
それを隣席の亀田は目を細めて見た。
「良い笑顔ですね。」
「A組には、感謝しかありません。」
「長岡先生もですよ。
とても、良い顔をされています。」
そんな事はないと思うが、亀田だって伊達に教諭を何十年も続けてはいない。
人を見る目は肥えているはずだ。
「そう、ですかね」
「えぇ、とても良い顔です。」
にこにこと春の午後が似合う笑顔で微笑む亀田にそう言われ、擽ったい。
らしくないと言われても、この写真は視界に入れたかった。
はじめてのクラス担任、はじめての事を沢山経験し、このクラスのお陰で出来た事も沢山ある。
まだまだ新米だが、少しだけ自信もついた。
この写真には結果が写っている。
あの静かだった入学式からこんなになったんだと。
相変わらず仮面を着けてはいるが、A組が写っているからこれが良い。
「そうだ、長岡先生が忙しくならない内にまた皆さんでお昼食べましょうね。」
「はい。」
満面の笑みが咲き溢れている。
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