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第1236話

「ご馳走様でした。」 綺麗に食べきった長岡は手を合わせ、亀田にも頭を下げた。 鰻重が届き、昼飯代を出そうとした際の事だ。 「長岡さんの分、僕に出させてください。」 「え、いえ…、そんな甘える訳にはいきません。」 長岡の財布を制した亀田は何時も通りおっとりとした笑顔で頷いた。 目尻の皺がまたいっそう深くなったようだ。 「何もしてあげられませんでしたから、せめて。 ね、長岡先生。」 「何もなんて事はありません。 沢山、色んな事を教えていただきました。 ……あの、ご馳走様です。」 「はい。 さ、あったかい内に食べましょうか。」 駄目だと言おうとした。 だけど、亀田の気持ちを殺す事は出来ない。 沢山色んな事を教えてもらった。 沢山助けてもらった。 何時も隣で穏やかな笑顔で見守ってくれていた。 ありがとうございますと言うにはまだ早いが、だけど、 「亀田先生、ありがとうございます。」 「年上には甘えたら良いんですよ。 そうされると、嬉しいですから。」 「亀田先生、隣行きましょう。 長岡先生も。」 「はい。」 重箱の蓋をしめた亀田もご馳走様でしたと手を合わせた。 「そうだ。 長岡さん、また野菜貰ってください。 もうすぐ菜の花と春キャベツが採れるんです。」 『年上には甘えたら良いんですよ。 そうされると、嬉しいですから。』 さっきの言葉を思い出した。 自分だって恋人に頼られたら嬉しい。 「ありがとうございます。 亀田先生の野菜はなんでも美味しいので嬉しいです。」 「貴方は、本当に優しい人ですね。」 そう言った亀田はほんの少し寂しそうだった。

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