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第1243話

静かな廊下をトイレへと向かう途中、風にのって梅のにおいがした。 中庭の梅だ。 別にトイレに行きたかった訳でもない。 ただ、なんとなく最後に行ってみたかっただけ。 外廊下へと繋がる3段の段差に腰掛ける。 4棟脇にたんぽぽが1輪咲いていた。 流石に水仙はまだだ。 色に溢れるこの学校が好きだったと改めて思う。 季節の色もにおいも、温度も、長岡といるとそれは鮮やかさを増す。 薄曇りの空に溜め息は溶ける、筈だった。 「はぁ…」 「悩み事ですか?」 はっと顔を上げると長身の教師が自分を見下ろしていた。 さっき別れて、長岡は準備室に戻った筈じゃ…。 「先生…」 「ん?」 「離任されるんですね。」 「あぁ、A組と一緒にこの学校出んだよ。」 A組と一緒。 そう笑った顔はとても綺麗で、思わずきゅんした。 三条は立ち上がると4棟トイレへと向かう。 その後ろを長岡は笑いを堪えながら着いていく。

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