1251 / 1273

第1251話

「電車待ちか?」 息を飲んだ。 真っ赤に染まる教室の後ろのドアから入って来た担任の長岡正宗。  「せんせ…」 「日が沈むのが早くなったな。 教室中真っ赤だ。」 「あ、はい。」 驚いた。 まるで、“あの日”に戻ったかの様な不思議な感覚だった。 瞬きをすると、鞄と花束を手にした長岡に戻った。 戻ったなんて言葉がおかしいが、だけど、本当にそう思った。 ロッカーも私物もない空き教室となった教室なのに。 まして私服なのに。 1年A組の…、あの日の教室かと思ってしまった。 ゆっくりと隣に歩いてくると、さっき見ていた方角を長岡も覗いた。 茶けた髪がキラキラと輝いて、あの日のにおいを思い出す。 「早いな。」 それが何を言っているのか。 時の流れか、それとも 「真っ赤、ですね。」 「あぁ、真っ赤だ。 …暗くならない内に電車に乗れると良いな。」 「はい。」 このシリーズなら桃のフレーバーが好き、そんな簡単な理由で購入した清涼飲料さえもあの日と同じ。 窓辺に置かれたそれを長岡は指差した。 「これ、貰って良いか。」 「飲みかけですけど…」 「構わない。 これが良いんだ。」 ひとつ頷くとありがとなと長岡はそれを手に取った。 「そういえば、三条は恋人いるんだったな。 先生もな、いるんだよ。 最高に可愛い恋人が。」 学校でのギリギリの発言に心臓がどきっとする。 「秘密な。」 そう笑った顔は恋人とも教師ともとれる顔だった。

ともだちにシェアしよう!