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第1253話
後方ドアの窓から見慣れた頭部が見えた。
真っ赤に染まる教室に黒い影が1つ。
「電車待ちか?」
その頭が弾かれた様に此方を見た。
制服姿の幼い顔立ち。
「せんせ…」
違う。
私服姿の大人っぽくなった卒業生だ。
今のは、あの日の幻影だ。
怯え顔もしていない。
随分と背丈の伸びた、大切な恋人。
「日が沈むのが早くなったな。
教室中真っ赤だ。」
「あ、はい。」
ロッカーも私物もない空き教室となった教室なのに。
まして私服なのに。
1年A組の教室かと思ってしまった。
ゆっくりと隣に歩いていくと、さっき見ていた方角を長岡も覗いた。
真っ直ぐな癖のない髪が夕日に照らされキラキラ輝いている。
「早いな。」
それが何を言っているのか。
時の流れか、それとも。
自分でもわからない言葉が口から溢れた。
「真っ赤、ですね。」
「あぁ、真っ赤だ。
…暗くならない内に電車に乗れると良いな。」
「はい。」
窓際に置かれたペットボトルが光を反射し、その眩しさに目を細めた。
この清涼飲料さえもあの日と同じか。
窓辺に置かれたそれを長岡は指差した。
「これ、貰って良いか。」
「飲みかけですけど…」
「構わない。
これが良いんだ。」
あの日、これを拾い上げる頃この子は人生のドン底にいた筈だ。
今は、どうだろうか。
「そういえば、三条は恋人いるんだったな。
先生もな、いるんだよ。
最高に可愛い恋人が。」
逆光で、三条がどんな顔をしているのか長岡からは解らない。
「秘密な。」
だけど、想像はつく。
きっと……
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