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第31話

「ここがなさるになると言うことは、この動作をする人は目上の人間ってことになります。 つまり、敬語から主語を特定出来るんです。」 「…ぅっ、…ん、ん…」 ローターが中の浅い部分で震えるのがもどかしい。 唇を噛んで声が出ない様に堪えるが体内から響く音が隣に聞こえやしないか冷や冷やする。 紙袋の中に入っていたのは、教育の場に相応しくないいかがわしい玩具と携帯ローション。 悔しいが従う他に選択肢がない三条は予鈴が鳴る前に無理矢理押し込むしかなかった。 「…三条、携帯鳴ってねぇ?」 隣から声をかけられ、びくりと緊張が走った。 ポキッとシャー芯が折れる。 きこえ、て… とにかく取り繕わなければ。 「え…、ぁ…サイレント…しとくの、忘れて…」 「マジか。 長岡に気付かれないと良いな。」 こくりと頷くと友人はすぐに前を向いた。 友人のあっさりした態度に安堵したいが、正直それどころではない。 聞こえて、るんだ… 最悪… シャーペンをノックするのすらもう億劫だ。 「源氏は帝の子だから動作は必ず尊敬語、逆に中流貴族の夕顔その侍女の右近には尊敬語は使いません。 それを踏まえての訳を次回までの宿題として今日はおしまいにします。」 「はっ、ぁ…」 やっと終わった… 長かった… 50分という時間が永遠の様に感じられた。 時々強さをランダムに弄られ声を押し殺すのに必死でノートの文字はぐちゃぐちゃ。 場所によってその蚯蚓が這った様な文字は書いた自分でもぎりぎり読めるどうかといった具合だ。 恨めしく担任を見るが、とうの本人はこちらを気にする事なく出て行ってしまった。 長岡が教室から出て行くと中の振動も止まる。 でも、また何時震え出すかわからない。 早く出したい。 それで頭がいっぱいなまま次の授業に挑んだ。

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