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第5話

二人は焦っていた。 ターゲットを競り落とす前に淫魔を捉えたとは言え、早くしなければ心変わりしないとも限らない。 なんとか男にカツをいれ、小走りで淫魔のボックス席へ向かっていたはずなのだが、今呪術師は一人の客に捕まり壁際に追い詰められていた。 「やっと見つけましたよ。ああ、貴方はどこの誰なんですか?僕をこんなに苦しめる罪な方のお名前をお聞かせ下さい」 ピンクのつけまつ毛をバサバサと揺らして呪術師に迫る青年。 それは先程別の広間で呪術師が腰砕けにした極楽鳥だった。 ずっと呪術師を探していたようで、通路で見つけるなりすごい勢いで突進してきてあっという間に呪術師を壁際に追い込むと、次から次へと質問攻めにしだしたのだ。 一応はそれなりに修羅場も潜ってきた呪術師を追い込むとは、案外只者ではないのかもしれない。 グイグイ近づいてくる脂粉の香りから身を引きながら、呪術師が引きつる笑顔で答える。 「……先程はご無礼いたしました。私のことはジェイとお呼び下さい」  一歩下がる呪術師。一歩進む極楽鳥。 「それは仮の物でしょう?私は貴方の魂の名が欲しい」 「夜闇に祝福されたこの宴で本名をやり取りするなど無粋では?」 「私の心を奪っておきながらなんてつれない方だ。王都で名を馳せる怪盗ですら名を残してゆかれますよ」 呪術師はいっそ物陰で気絶させようかと思うが、少し離れた所で取り巻きどもがこちらを伺っているのが見え内心舌打ちする。 側で男もイライラ様子を見ているが、ペットという立場上ご主人様以外の客に勝手に接するわけにもいかない。ほかの客の目もある。  そろそろターゲットの競りが始まるだろう。早くしないと淫魔がボックス席から出てしまうかもしれない。  内心焦る呪術師の傍らで、みかねた男が突然叫んだ。  「ゴシュジンサマ!おれ、トイレ行ってくる!」  同時に淫魔の席の方へ駆け出す。  「え?ちょ!まて!」  呪術師が咄嗟に止めようとするが、その肩を長い爪のついた手で捕まえられた。  「逃しませんよ!」  極楽鳥は獲物を捉えた猛禽の目で呪術師にしがみ付いた。                     ◇  急がなくてはいけない。ただそれだけで淫魔のいる個室前まで来たが、男はそこで我に返った。  本来なら男のフェロモンを利用して呪術師が言いくるめ、時間まで淫魔を足止めする予定だったからだ。  呪術師と違い嘘も下手な男に、一人で色仕掛けが出来るとも思えない。  「咄嗟に飛び出して来たは良いものの、どうすりゃいいんだよ」  オロオロしながら頭を抱えていると、ボックス席のドアが急に開いて男を引きずり込んだ。  「!?」  急なことに反応しきれない男が息を呑む。  ぱん  甲高い音が男の鼓膜を貫いた。  蝋燭のみの薄暗い席の中に入った途端、男のイヤカフがはじけ飛んだのだ。急激に大量の魔力を流されてキャパシティを超えたのだろう。これでは「けして手を触れられませんように」の制約は働かない。  だが淫魔はなんでもないように尋ねた。  「おや、君一人かい?ご主人様は?」  「あ、あの、ちょっと遅れてて。後からすぐ来ますから!」  座席には結界カーテンが引かれて薄暗い。腕を掴まれたまま必死で弁解する男。だが淫魔は擬態している青年らしからぬ歪んだ笑みを浮かべた。  「へえ、そうなの?」  見た目に反する膂力で男を壁に押し付ける。  「うっ!」  「借りてきたペット、丁度食べ尽くしちゃったところなんだ。君のせいだよ?あんまりいい匂いで空腹を我慢できなくなっちゃったんだもの。僕、我慢は得意な方なのになあ」  視線の先、ボックス席の隅に淫魔のペットらしき青年が全裸でオモチャのように打ち捨てられている。  精液で汚れ、手足はあり得ない方向に曲がっていた。  ぎょっとする男を尻目に、淫魔がネクタイを解く。  「本当は別に本命の獲物がいたんだけど、……君に会えたからまあいいや」  がちゃり  ドアに手も触れてないのに鍵が掛かる。  「さあ、楽しもう?」  淫魔はマスクを外すと男の目を覗き込んだ。紫色の眼光が男の体を縛る。  「くっ!か、体がっ」  淫魔の眼光に身体が硬直する。  魔眼によるバインドだ。  焦りを必死で押さえながら、男は自分に言い聞かせる。  (落ち着け。本気を出せば多分力技で解ける……でも、作戦を進める為にはこのままじゃなきゃ怪しまれるよな……)  今は淫魔の意識をこちらへ向けておく必要がある。少なくとも呪術師が駆けつけるまで堪えなければならない。  「あれ?あんまり抵抗とかしないタイプなんだ?意外だなあ。まあ騒ごうが暴れようが無駄だけどねえ」  男の巨体をソファに軽々と乗せる淫魔。首筋から胸、臍のあたりをクンクンと匂いを嗅いで、うっとり囁く。  「こんなに美味しそうな魔力持ちが居たなんてねえ。君、本当に今までどこに隠れていたの?熟成されて、豊かな淫の魔力……ううん、なんて良い香りだ……他の奴らに食い尽くされてないのが奇跡だね」  ソファに片膝で乗り上げて、男の全身を撫で回す。それはまるで解体前の家畜の骨格を吟味しているようで、男の背中に悪寒が走った。  弄る手が男の顎を捕らえる。どの程度抵抗して良いものか男が迷う内に、いつのまにか口の奥まで舌が入り込み粘膜をすりあげられた。  「んぐっ」  ぐちゅぐちゅとはしたない音を立てて淫魔の舌が男の唾液を啜る。  上顎をくすぐり、歯の根本を震わせ、逃げる男の舌を吸い込み甘噛する。  男根にするように先端を舐めあげて味わうと、ちゅぱっと弾みよく引き離した。  「はー、駄目。美味しすぎて夢中になっちゃうよ。僕、本当我慢強い方なんだけど」  口の端を手の甲で拭う。  テラテラと光る唇が歪む。  「あれ?乳首勃っちゃった?」  人差し指が男のプックリした乳首をひねる。  「ンあぁっ!」  いきなりの容赦ない刺激に悲鳴が漏れる。咄嗟に堪えきれなかったことが恥ずかしくて、男は唇を噛みしめた。  「君、おっぱいがイイ子なんだね?よしよし、たくさん遊んであげるよ」  淫魔はどこから取り出したのか、半透明のローションを取り出して男の胸の上に垂らしだした。  「ぐっ」  その冷たさに眉間に皺がよる。  「冷たかったかな?我慢してね。大丈夫、ほら、だんだん温かくなってきたでしょう?」  淫魔の手がぬるぬると肌の上を滑ると、言われたとおり男の肌に不思議な温感が伝わってきた。生き物のものとは違う、ムズムズする妙な温もり。  「これ、新作のローションなんだよ?塗ると温かくなって……」  指が男の乳輪をひっかくと、男がまた嬌声を上げた。  「ああっ!」  いつもとは明らかに違う灼けるような快感。  「感度も向上するんだ。肌にも優しいし、優れ物だよねえ」  胸全体に伸ばした後、訪れるであろう快感に期待している乳頭を爪で引っ掻いては、もっちりした胸全体を大きく揉み込む。  一番敏感な場所とじれったい場所を交互に刺激され、男が身を捩る。 「や、やめぇっ」 「おっぱい弱いのに、こんな胸を強調するコルセットつけるなんて、君のご主人様も酷いよね」 胸の谷間をゆっくり辿り、乳頭を指先でトントンノックしながらくすくすと淫魔が笑う。 「くうっ!」 ローションで適度に暖められてさらなる刺激を予感した男の乳首は、男の意志を裏切って果実のようにぽってりと紅く熟れていた。指の腹で擦られるだけで無意識に腰が動いてしまいそうだ。 「あっあああっ」 手のひらで両乳首を転がしてはイイトコロで止める。羞恥と屈辱に濡れる瞳に見上げられると、淫魔は嬉しそうにため息を付いた。 「はー、ほんと触ってるだけでどんどん美味しい魔力が流れ込んでくる……」 陶然としながら男のスカートに手を伸ばして、その堅牢さに眉をひそめた。 「ありゃ、捲れないのかこれ。しかもスカートに鍵?ふふふ、でもこんなの僕にはオモチャみたいなものさ」 淫魔は男のタイトスカートについている魔術鍵を人差し指で数回撫でると、あっさり解錠して一気に剥ぎ取った。そこにはバタフライモチーフのレースが男の蜜滴る男根を儚げに守っている。 「お、蝶のモチーフか。結構好きだよこういうの、悪趣味で。でも今は邪魔かなあ」 「や、やめろぉ!」 男の訴えも虚しく、薄紙細工を破るようにちぎり捨てる淫魔。 ニーハイブーツとコルセットのみにされた男の肢体が蝋燭の炎に照らされ、揺らぐ筋肉の凹凸が一層淫魔の肉欲を煽る。  中心で太く反り返るそこを人差し指と親指でつまみ、尖らせた舌でちょん、とつつくと男が低く唸った。  「ご近所対策にちゃあんと防音結界張ってるから、もっとカワイイ声聞かせてよ。お口は動くでしょ?」  薬指で男の蜜液をすくい取って自らの舌の上に載せる。  「んー、あまぁい。脳髄にクルなあ……」  半ば白目を向いて悦に入る淫魔に、男が侮蔑を投げた。  「変態め……」  そこで何を思ったのか、淫魔が急に猫がじゃれるように男の腹に顎を乗せた。  「僕さあ、さっきから言ってるけど、我慢強いんだよ」  「……だから、なんだ」  「君のご主人様ってさあ、顔も女顔だし、生え際に将来の不安を感じるタイプで別に僕の好みじゃないんだけど、君を連れてきてくれたから、特別に君と一緒に食べてあげる事にしたんだ」  「はぁ?!」  急に何を言い出すのかと男が首を向ける。  「打ち捨てられるゴミから、メインディッシュの添え物として大抜擢さ。美味しいもの食べながら不味いもの齧ると、美味しさがより一層際立つでしょ?」  散々な言い様に、しかし男はぐっと堪える。  ここで暴れては作戦が台無しだ。こらえろ、こらえろと内心で唱え続けた。  「スカートにこんな鍵まで付けさせるような変態だ、目の前で自分のペットを貪られたら発狂しちゃうんじゃない?」  呪術師への暴言に気を取られていた男の男根を、いきなり淫魔が咥え込む。  「あっ、なあっ!」  熱い口内。  ざらついた舌が亀頭の先端を中心に舐め責める。  「やめろっ、ああっ、くうっ!」  裏筋を甘噛して、同時に袋をヤワヤワと揉み、時々強めに掴んでやる。  「んふっ、こんなに蜜を零して、随分期待させちゃってたみたいだね」  「だ、だれが、ああっ!」  側面に強めのキスを落としながら、愛おしそうに下から上へ舐め上げると、再び先端を咥えこんでじゅっぽじゅっぽと淫らな音が男を責めた。  「んぁっ!ああン、いやだぁっ!」  男が十分追い詰められたのを察した淫魔が、最後の止めに前歯で甘噛しながら強く吸引すると、甘い疼痛が腰から抜けていき男は精を放った。  甘露を飲み下す淫魔が機嫌よく頷く。  「ん、ぷりっぷりの精液ぃ。ごちそうさまー」  何回かにわけて名残惜しそうに飲み下すと、時計を見て淫魔はやれやれという顔になる。  「君のご主人様遅いねえ。ここに来るような、プライドばっかり高くて、ヒョロくて、自分が負けるなんて1つも考えないような高慢な人間を痛めつけながら啜るの結構好きなんだけど……。」  つうっと男の蕾に指を這わせた。  そこは日々呪術師にタップリ可愛がられたお陰で今やすっかりピンク色に熟れ、先程嬲られた刺激でヒクヒクと楔を打ち込まれるのを期待している。男の意思とは無関係に寵愛を強請るそこを、淫魔は舌先でくすぐる。  「やっ、そこっ、触るなぁ!」  「えー?ご冗談。ここからが本番でしょうに」  言うなり、長い舌が一気にねじ込まれる。  「あああっ!」  差し込んでは引き抜き、溝を辿り、別の生き物のように内壁を蹂躙し続ける淫魔。  淫魔の唾液とは別の蜜が溢れてくるのを、喉を鳴らしながら味わい続ける。  タップリ解してから、ちゅぽっと舌を抜き取ると、桃色のそこは小さい空洞を開いて堪えきれないとでもいうように涎を流している。  男は次から次へ行われる淫らな暴力に息も絶え絶えだ。  気を張っていなければ、今にも脚を開いてこの魔物に哀願してしまいそうになる。  肌を染めぐったりする男を見下ろして、淫魔はベルトをくつろげると怒張する自身を取り出した。 ひたり、と先端を蕾に当てる。  「ひっ!」  男の肩が跳ねる。  「僕、実際本当に我慢強いんだよ?。でも、……君のご主人様がこのドアを開けて、愛しのペットが僕の下で喘いでたらショックだろうなあって思うとさぁ……。くくく。どんな顔するかなあ、あのヒョロハゲ」   その時、銃声が響いた。  がうん  がうん  がうん  一拍置いて轟音。  ずずぅん  「な、なに?!」  突然の事に淫魔が動揺して天井を見上げた。  そして淫魔の気がそれた瞬間、淫魔のバインドが解けて男の四肢が自由になる。  男は跳ね起きると同時に、握りしめた拳を淫魔に向けて振り抜いた。

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