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第2話
古い通りには、戦後すぐから建っていると噂される年代物の店が軒を並べていた。汚れて錆びたアーケードが狭い通りを覆っている。道幅は車一台がやっと通れる程度。奥はごちゃごちゃしていて見通せない。
全長数百メートルの最後は行きどまりで、お宮さんがあることからお宮通りの名前はついていた。できた当初は賑わっていたらしいが、どんづまりの地形のせいで人の流れが滞ってしまい、だから時代と共に寂れていったのだと同級生に聞いたことがある。
陽向自身は隣の県出身だったから、ここに来るのは初めてだった。
「なあ、やっぱり帰ろうよ」
陽向が引きとめるのに、多田が通りの奥をのぞきながら興味津々の顔を見せる。
「ちょっとだけ、行ってみようよ」
「いや、まずいよ。ここ、ガラが悪くて怪しい売人とかもいるから、地元の人だってあまりよりつかないって聞いたよ」
陽向の言葉にも、気にする様子はない。
「大丈夫だよ。怪しかったら、すぐに逃げればいいんだし」
桐島の方を見れば、彼女も恐がってはいたが入ってみたそうな顔をしていた。お化け屋敷を試すような心境なのかもしれない。
「……なら、ちょっとだけだよ」
仕方なく、流れに負けて一緒について行くことにする。ふたりに続き、都市ゲームのダンジョンに挑むような心持ちで足を踏みだした。
薄汚れた看板を見ながら、少しずつ奥へと進んで行く。通りを歩く客層も、駅の表側にある商店街とはずいぶん様子が違う。灰色と茶色の風景に馴染む人たちが多かった。
個人で営んでいる居酒屋にホルモン焼き屋、女性の名前が看板に記された年季の入ったスナック。錆びたシャッターが下りたままの店もあった。
テレビなどで見る大都市の裏通りの治安の悪さとはまた違う感じがする。どちらかと言えば、昭和の裏通りにタイムスリップしたような懐古的な雰囲気があった。
「そんな、怖くないよね?」
「なんだ、大したことないじゃん。ちょっと古いだけだよ」
多田が先へ先へと進むのに、陽向は桐島と共にあとを追いかけた。
「なあ、もうそろそろ、引き返そうよ」
陽向が多田の服の袖を引っ張ろうとしたとき、通りの端にいた四人組に声をかけられた。
「よ。あんたら、学生?」
気さくな話し方で、近よってきたのはストリート系のファッションに身を固めた怪しげな男たちだった。
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