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第3話
野球帽を後前にかぶり、耳にはいくつものピアスにずりさがったデニムパンツ。そして皆、夜だというのにサングラスをかけている。彼らだけ非常に平成な集団だった。
「ええ。そですけど?」
格好つけたがる多田が、顎を持ちあげ偉そうに返事をする。それに相手が苦笑した。
「だと思ったよ。頭よさそうだもんな。ねえ、ちょっと、いいもんあるんだけど、見ていかない?」
うさんくさい笑い方で、陽向らを取り囲むようにしてくる。その普通じゃない様子に、陽向はなんだか怖くなった。けれど、多田は平然とした顔で彼らの相手を始める。アルコールが入っているせいで、気が大きくなっているようだった。
「え? なに? いいもんてもしかして、ヤバめのもの?」
「まさか。俺らが持ってるのは合法のものばっかだよ」
「合法の、なんですかぁ?」
多田が無邪気に話しかける。
「合法の、ハーブとかドラッグだよ」
それホントに? と多田が声をあげる横で、桐島が陽向に小声で「これやばいんじゃないの」と囁いてくる。嫌な予感がして、なにも起こらないうちに戻ろうと陽向は多田の手を引いた。
「なあ、もう、帰ろうよ。……すいません、俺ら、そういうのはいいですから」
あとの台詞は男らに言ったものだったが、それに集団のうちのひとりがギロリと睨みをきかせてきた。三人を囲っていた男たちが、にわかに態度を変えてくる。
「おい、あんたは黙ってな。俺らはこっちの兄ちゃんと取引してんだ」
いきなりドスのきいた声をだしてきたのに、多田も瞬時に酔いが冷めたのか目をぱちくりさせた。
「や、やだなあ。まだ買うなんて言ってないじゃないですか。話、聞いただけっすから」
及び腰になった多田に、四人組の表情が一変した。
「は? ふざけんなよ」
「なに調子こいてんだこのガキ。俺らからかうつもりだったのか」
距離をつめて、大声をだし始めた男たちに多田も委縮して「ひい」と情けない声をあげた。
けれど通りを行きかう人たちは、こちらを見るものの助ける気はないらしく一瞥して素通りしていってしまう。もしかしてよくあることなのかもしれない。
助けを呼ぶこともできそうになくて、かといってこのまま逃げだすのも困難な状況に、どうしていいかわからず陽向はオロオロとなった。
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