4 / 115

第4話

 こんな局面に遭遇したことがないので対処の仕方がわからない。女の子も連れているので危ない目に遭わせてはいけないし、謝ってしまえば無事に解放してもらえるものなのかと焦ってしまう。 「兄ちゃん、あんたはこっちきな。俺らと商売しようぜ」  そうしているうちに多田が手を掴まれ、連れて行かれそうになった。いくら持ってんだよ、あるだけだせば帰してやるよ、と脅される姿を見ていたら、陽向の横にいた桐島が、男に腕を引っ張られた。 「あんたらは、こっちきな」 「きゃっ」  小さく悲鳴をあげた桐島に、陽向は驚いて男の手に縋った。 「や、やめてください。暴力はっ」 「おお? なんだ、チビのくせにヤル気かよ」  厳つい体格の、まばらに髭を生やした男が面白そうに陽向を見下ろしてきた。男らに比べてずっとひ弱な陽向だったが、今はそんなことに構ってられなかった。 「彼女に手をださないでください」  桐島を庇うようにしたら、男に胸を指先でひと突きされる。よろけたところに、足払いがかけられた。  あ、と思ったときには遅く、酔っていたこともあって簡単に道路に尻もちをついてしまう。 「陽向」  桐島と、多田も驚いた声をだした。けれど男らは笑うばかりで、ふたりの手を掴むと通りの奥へと引っ張っていこうとする。やめて離して、ともみあっているところに背後から大きな声が響いてきた。 「おい、そこでなにやってんだよ」  凄みをきかせた、低い声が聞こえてくる。  顔をあげると、多田を連れて行こうとした男らの後ろから、ひとりの背の高い男が現れた。  白いシャツと黒のベストにネクタイ、黒のスラックス姿で、髪の短い精悍な顔立ちの男性だった。スーツ姿ではない。どこかの店のバーテンダーのようだった。 「なんだ。またあんたらか」  陽向たちと男らを見比べて、怖がる様子もなく険しい顔で言い放つ。 「いい加減にしてくれよな。ここで騒ぎを起こすなって、何回言ったらわかるんだよ」 「はあ? 声かけてきたのはこいつらだよ。俺らは、因縁つけられてただけ」  不良集団は、どう見ても嘘とわかる言葉をふてぶてしい態度で吐き捨てた。それにバーテンダーらしき男は、呆れた口調で言い返した。 「嘘をつけ。そこに転がってるのはなんなんだよ。あんたがやったんだろ」  顎をしゃくって陽向を一瞥する。

ともだちにシェアしよう!