5 / 115

第5話

「とっととここから出てけよ。目障りなんだよ。あんたらのせいでまた客が減るだろ」 「は。知ったことかよ。偉そうに」  陽向を倒した男が、同じようにバーテンダーに足を振りあげた。バーテンダーはそれをかるくかわすと、拳を作って相手に繰りだした。  目にもとまらぬ速さだった。パシ、と音がしたと思ったら、男は後ろにのけ反った。 「てめえ、素人に手えだす気かよ」  周りにいた男たちが殺気立つ。それにもバーテンダーは平然とした顔で答えた。 「こいつは素人じゃないだろ。プロ崩れだろうが」  パンチを当てられた男が鼻を押さえながら、体勢を整えて凄む。 「てめえ。ぜってー殺してやる」  血走った眼で相手を睨みつけるものの、バーテンダーは鼻で笑っただけだった。 「何回かかってきても、あんたは俺には勝てないよ」 「この野郎っ」  男らが集団で相手に飛びかかろうとしたとき、バーテンダーの後ろからまた別の怒声が降ってきた。 「やめろおまえら。警察を呼ぶぞ」  皆が一斉に振り返る。背後に中年の髭を生やした恰幅のいい男性がひとり立っていた。  いきなり割って入ってきた年配者に出鼻をくじかれたようになって、男らは一瞬、襲いかかろうとした手をとめた。 「警察が来たら、まずいんじゃないのかい。ええ? 持ってるものも調べられるぞ」  中年の男も、どこかの店の主人のようだった。エプロンを腰に巻いている。その台詞にストリート系の男らは、顔を見あわせて視線を迷わせ始めた。どうしようかというように、目配せしあう。 「倒れてるちっこい奴も、証拠品として一緒に警察に連れてってもらおうか」  バーテンダーが言うと、それを機に男らは引きあげる体勢に変わった。顔をしかめ、暴言を吐きながらその場から離れていく。  陽向も手をついて、ヨロリと起きあがった。  その時、目のまえを横切ろうとしていた男がいきなり足を振りあげた。避ける間もなく、股間を力いっぱい蹴りあげられる。 「――っ」  電撃のような痛みが、急所に襲いかかった。  経験したことのない激痛に声も出ずその場にうずくまる。道路にゴロリと転がれば、無意識のうちに防御態勢を取ろうと身体が虫のように丸まった。股間を両手で押さえるも、痛みは許容できる範囲を超えていた。 「おいっ、この野郎!」

ともだちにシェアしよう!