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第6話

 バーテンダーが怒鳴ると、男らは嬌声をあげながら走って逃げていく。覚えてろよとか、借りは返すからな、とかお決まりの捨て台詞を投げつけながら、通りの向こうへと去っていった。  バーテンダーは不良集団は追わずに、陽向に近づいてきた。 「あんた、大丈夫か?」  見下ろして声をかけてくる。陽向は痛みに耐え切れず、脂汗を額に浮かべた。 「……ぇ、ええ……」 「大丈夫じゃなさそうだな、君、起きれるかい?」  中年の店主が、しゃがみこんで陽向を助け起こしてくれる。 「(もとき)、とりあえずおまえの店に連れていこう。ここは人が通る」  礎と呼ばれたバーテンダーがやれやれという顔をした。 「あんたら学生だろ。あんな奴らに声かけられて、簡単に付いて行ったらどうなるか、わかんなかったのか」  学生はいっつもここいらで騒いだり面倒起こしたりして、俺らに迷惑かけるんだよ、と不機嫌に呟く。 「……すみません」  消え入りそうな声で謝れば、バーテンダーは陽向の真っ青な顔を見て、それ以上はなにも言わなくなった。店主を手伝って反対側から身体を抱えあげる。  陽向はすぐ目のまえにある『ZION(ザイオン)』という店に、多田たちと一緒に連れていかれた。  そこは狭いバーだった。  奥にひとつだけボックス席があり、陽向はふたりがけのソファに下ろされた。横でしゃがんだバーテンダーが訊いてくる。 「股間、蹴られたんだろ。痛みは?」 「……大分、痛いです」  バーテンダーは、髭の店主と顔を見あわせた。 「病院へ連れていくか」  店主が言う。屈んで陽向に「病院へ行った方がよさそう?」と尋ねてきた。 「……いえ。多分……大丈夫です」  しばらく休めばよくなる気がする。蹴られたところは、ひどく痛むがさっきよりは許容できる範囲に治まりつつあった。 「痛いのなら医者にかかって診てもらった方がいいだろう。診断書ももらっとけば、後から警察に行って被害届もだせるよ」 「いや。それは……」  警察に行って、そのせいで逆恨みでもされたらと怖くなる。自分だけならまだしも、桐島とかにとばっちりが言ったら目も当てられない。 「もう、関わりたくないんで、それは、いいです……。少し休めば、歩けます……きっと」  そう言うと、店主とバーテンダーは、顔をよせあい相談を始めた。

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