8 / 115

第8話

 アイスパックはぺたり、と音を立てて床に落ちた。拾おうとしたけれど、痛みで身体が言うことをきかない。半眼でうつろな表情の陽向を見て、上城は仕方なさそうにため息をついた。 「それじゃあ無理そうだな」  屈んでアイスパックを拾いあげる。 「やってやるから、足、ひらけよ」 「……はい。……すいません」 「野郎同士だし、別にいいよな」 「……はい、いいです」  恥ずかしさより、この痛みを取ってくれるのならどうにでもして下さいという心境で、言われるがまま足をひらいた。  バスタオルの下で、上城が陽向のパンツと下着をさげる。腿に手を添わせて、蹴られて熱を持った部分を探るようにしながらアイスパックをさし込んできた。 「……ぁ」  痛みの元に、氷が触れて思わずか細い声がもれた。ひやりとした感覚に、激痛がスッと引いていく。ぶるっとおののくと、肩を小さく竦ませた。 「どう?」 「……きもち、いい、です」  冷たさで神経が麻痺していくのと同時に、身体が楽になる。鋭い痛みからやっと解放されて、安堵に表情が和らいだ。 「……ぁ、いい、かも」  くたりとなった陽向を、上城が片手で支えてくる。薄目をあけて周囲をうかがえば、上城がこちらをじっと見つめていた。  陽向は曖昧な眼差しのまま、相手を見返した。  陽向の顔色を観察しているのだろうが、目つきにはもう先程のような険しさはない。そして間近で見てみれば、この上城と言う男はすごく整った容姿をしていた。  一重の目は大きく、切れ長で鋭い。端に向かって持ちあがり気味のまっすぐな眉に、鼻梁は高くしっかりと通っていて、そのために顔全体が力強く見える。さっきの喧嘩の手際といい、この人は拳闘かなにかをやっている人らしい。  容姿は人並み、おっとりした性格で人と争うことは苦手、プニプニ癒し系キャラと桐島に評される自分とは真逆の人種だ。  上城が、多分無意識にアイスパックを揺らすようにした。それが足のつけ根を冷やして、陽向はぴくりと身体を跳ねさせた。 「あ……」  息を飲みながら小さく喘ぐと、上城はそんな陽向の表情に戸惑った様子を見せた。 「自分で、押さえられる?」 「あ、はい……」  いつまでもお願いしているわけにもいかないだろうから、陽向はもぞもぞと腕を動かして、バスタオルの下の相手の手を探した。

ともだちにシェアしよう!