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第9話

 上城の手は、陽向の縮みあがった急所の下に添えられていた。赤の他人にそんなところを世話されているのが急にいたたまれなくなって、陽向は蒼白だった顔をさらに青くした。相手だって、男のものなんか進んで触りたくもないだろう。 「す、すいません……も、もう、自分で、あとは、できますから」  アイスパックを上城の節立った手からそっと受け取り、陽向は男から顔をそらせた。上城はバスタオルの下から手を抜くと、タオルを陽向にかけなおした。 「ここでゆっくり休んでな。気分がよくなったら送ってってやるから」  陽向の背中をゆるく擦ると、さっきとは違う優しげな声で労わってくる。その低く暖かな声に慰められて、陽向は「はい」と素直に返事をしていた。  しばらくの間、上城はソファに横たわる陽向の痛みを和らげるように、背中や肩を撫で続けた。アルコールが残っていた陽向は、やがてやわやわとした心地よさに包まれて、いっときの眠りに落ちていった。  三十分ぐらい寝ていただろうか。はっ、と気づけば、ソファの隅に上城が腰をおろし、陽向の腰のあたりを擦っていた。陽向の瞼があいたのを認めて静かに声をかけてくる。 「どう? 痛みは」  薄暗い店内で、上城の後ろから暖かなオレンジ色のライトがさしてきていた。それが彼の輪郭を朧げに浮き立たせている。上城自身の表情は影になっていてよく見えなかった。 「……大分、治まって、きたみたいです」 「そう。ならよかった。これ、飲んで」  口元にストローが当てられた。寝ている間に汗をかいていた陽向は、喉の渇きを覚えてそれに吸いついた。アルカリ飲料のひんやりとした甘みが口の中に広がる。ごくごくと飲みほせば、すうっと身体が楽になっていった。 「すいません」  気遣ってもらって、済まなさに謝る。 「起きられるようなら送ってくよ」  陽向は、伏していたソファから上体を持ちあげた。 「はい……もう、大丈夫みたいです。多分、歩けます」  バスタオルの下で、はいていたものを整える。まだどんよりとした痛みはあったが、さっきよりずいぶんましになっていた。 「家に帰ったら、血尿出てないかチェックしときな。出てるようなら病院行った方がいい」 「……そ、そうですか」  自分の身体からそんなものが出てきたらどうしようと、暗澹たる気持ちになる。恐がりの陽向が顔を青くしたのを見て、上城が肩をかるく揉んできた。

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