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第10話
「痛みが引いたなら、多分、大丈夫だろ」
上城はカウンターの中にいた若い男に、少し出るからと声をかけた。アルバイトらしい栗色の髪の青年は、はいと返事をした。
ふらつきながらも立ちあがると、横から上城が腕を掴んでくる。
「あんたんち、遠い?」
「いえ、駅から歩いて十五分ぐらいです」
「なら、通りの入り口でタクシー拾おう。お宮通りには車は入れないから」
「すいません」
腕を引かれて店を出ると、もと来た道を引き返した。さっきの四人組はもういないようだった。
通りを抜ければそこは片道一車線の道路となっている。暗い歩道の端に、タクシーが一台停まっていた。
上城はまっすぐ車に向かうと、運転手に声をかけた。運転手が頷き後部ドアがあく。どうやら、まえもって電話で連絡しておいてくれたらしい。
「じゃあ、お大事に」
陽向を後部座席にのせ、ドアを押さえながら上城が言った。
街灯の下、片頬を少し持ちあげるようにしている。陽向はその格好よさに、同性ながらちょっとドキマギしてしまった。
「……ありがとうございました」
礼を述べるのが精一杯で、気恥ずかしさに俯いてしまう。タクシーはすぐにドアをしめて発進した。
振り返れば、暗い夜道に背の高いバーテンダーは見送るように立っている。
陽向はシートにもたれて、まだ残る痛みと不思議な緊張感に、小さくため息をついた。
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