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第14話

「あんたら、学生?」  上城が、メジャーカップでブランデーをはかりながら聞いてきた。 「はい、そうです。ふたりとも近くの大洋経済専門学校の二年です」 「ああ、そうなんだ」  上城の言い方はそっけなかった。けれど、冷淡というわけではない。これが普通の話し方のようだった。  バレンシアの材料を加えたシェーカーを、かるい手さばきで数回振ると、冷やしたグラスに丁寧に注ぐ。薄いオレンジを飾って桐島のまえに滑らせれば、彼女はうっとりした目つきで上城を見つめていた。その気持ちはわからないでもない。陽向も同じように見とれていた。 「けどよかったですね、カレシさん、なんともなくて。カノジョさんも心配だったでしょ」  横でグラスを磨いていた栗色の髪の青年が話に入ってくる。その言い方が、まるでふたりがカップルという前提のもとに話しているようだったので、桐島が慌てて否定した。 「ち、ちがいますよっ。これはカレシなんかじゃないですよっ」  手を大げさに振り回して、声高に訂正する。きっと上城に誤解されたくないからだろうが、『これ』扱いに陽向は苦笑するしかなかった。 「あ、ああ、そうなんですか。それはすいません」 「陽向は単なる友達です。あたし、カレシなんていませんからっ」  目のまえの上城をちらりと見あげる。焦った様子から、桐島が彼に惹かれ始めているのがよくわかった。  けれど上城はその視線には気づかぬそぶりで、冷えて霜のついたロンググラスとハイネケンを冷蔵庫から取りだした。瓶の栓を抜くと、手なれた仕草でビールを注ぎ、泡をグラスの上部に綺麗にまとめる。  長い指と、節だった手の甲が男らしくて格好よかった。この手が昨夜、自分の身体に触れてきてたんだよな、と思った瞬間、アイスパックの冷たさを思いだしてしまいヒクリと内腿が痙攣した。  うっ、と目をそらせて、不埒な想像を頭から追い払おうとする。 「どうぞ」  上城がコースターにのせて、ビールを差しだしてきた。 「……すいません。頂きます」  瞳を伏せ気味にして、グラスに手をのばした。一口飲んで、冷えたビールで頭の中も冷やそうと努力してみる。けれど血流がよくなって、なぜか心臓もドキドキし始めてしまった。酒には強い体質のはずなのに。

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