18 / 115

第18話 瞳が合って

 陽向は、先月末に二十歳になったばかりの成人男子である。  今までの人生で、女の子と付きあったことは一回だけで、しかもキスどまりであった。  その先へは、進みたいと思っていたがチャンスが巡ってくることはなく儚い恋は散ってしまっていた。  そして、男を好きになったことは一度もない。  基本的に、自分は恋愛には奥手なのだと思っている。女の子とは友達同士のような関係を築く方が好きだったし、生々しいことにはあまり興味を感じない。草食系というやつなのかなあ、と考えている。  低い背丈や容姿もコンプレックスであった。身体は小さいのに頭は大きめで、見た目はぬいぐるみのようなゆるふわ感がある。  けれど、恋愛に全く関心がないというわけではない。まあ、まだ子供の域を出ていないということなんだろう。桐島とも、いい友達ではあるがどうこうしたいという気は全然なく、彼女にしてみても陽向に対しては同様に、男としての魅力は感じていないようだった。 「で、アキラさんから得た情報によると、上城さんはここのジムに通っているらしいのよ」  上城と知りあってから数週間後、陽向は一軒のビルのまえに連れて来られていた。  ビルには、『山手ボクシングジム』という看板が掲げられている。一階がボクシングジム、二、三階がスポーツスタジオと示されていた。  学校帰りの月曜の夜。今日は上城の店、ザイオンの定休日だった。 「それで? 俺はなんで今日、ここに連れてこられたわけ?」  ふたりで看板を見あげながら、陽向は隣の桐島に質問した。 「陽向、ボクシングやる気ある?」 「……まじで訊いてんの」  そんなもの、生まれてこの方やりたいと思ったことなどない。殴りあうスポーツなんて、観戦するのも痛くてできない性質だった。 「だよねえ、仕方ない。あたしがやるしかないか」 「え? 桐島、ボクシングやるの?」  まさか、と手を振って笑う。 「二階のスタジオでボクササイズ教室やってるの。そこに時々、上城さんもアシスタントとして手伝いに入ってるらしいのよ。だから、そっちに入会してみようかなって」 「ああ、そういうこと」  桐島の恋の手伝いで、上城と殴りあうことになるのは御免だった。

ともだちにシェアしよう!