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第20話

 数分間、ふたりは対峙したあと、挨拶をしてお互いリングを下りた。そのまま中年のトレーナーらしき人と話を始める。  陽向と桐島は、まるで自分らが戦い終わったかのようにため息をついた。 「あのさあ、陽向」 「なに?」  ふたりとも、まだジムの中を窓越しにぼんやりと見つめていた。 「このまえから、何度かザイオンに通ってるじゃない」 「ああ、うん」  数日まえに、お礼を言いにザイオンを訪れて以来、陽向は桐島に付きあって、その後も何度か店を訪問していた。  もちろん付きあってとはいえ陽向は嫌々ではなく、どちらかといえば自分も行きたい気持ちで誘いにのっていた。  まだ学生の身分の陽向は、今までは居酒屋ぐらいしか行ったことがなかったから、バーの静かな雰囲気の中でお酒を楽しみながら歓談するという、知らなかった大人の世界を経験して、それがすごく気に入ってしまった。  陽向と桐島は、大抵いつもカウンターに座って、数杯お酒を飲みながら上城やアキラと雑談をする。上城はあまり口数が多い方じゃない。初見のときから変わらず、そっけない態度で接してこられる。けれど嫌味な感じは全くない。むしろそれが、寡黙なバーテンダーというキャラを作りだしていてとても魅力的だった。  陽向はカクテルを作ったり、接客したりする上城の姿を見るのが好きだった。アルコールが入れば、いつの間にか頬杖ついてホワンとした目線で忙しく立ち働く上城を見つめていたりして、桐島に「酔うと顔が溶けるね」とからかわれた。  顔が溶けそうになるのは、酔いだけのせいじゃない気がしたけれど、なんだか恥ずかしくて陽向はそのたびに適当に誤魔化していた。上城には「どっかのゆるキャラにそんな顔の奴いたな」と苦笑されたけど、彼に構ってもらえるのは嬉しかった。 「あたしさあ、ひとりでもお店、何度か、行ったんだわ」 「ええ? まじで? 危なくなかったの?」 「いや。なれれば大丈夫。あそこはそんなに危険じゃないわよ。あたしらが初めて行ったときは、運が悪かったみたい。それに念のためって、いつもアキラさんが通りの入り口まで送り迎えしてくれるし」 「へえ。そうなんだ」  将の馬は、こんなときも駆りだされているらしい。 「で、思ったんだけどさ」 「うん、なに?」  桐島は、窓の向こうの上城を眺めながら、うっとりと夢見るように話しだした。

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