21 / 115

第21話

「上城さんってさ、あたしひとりで行くとさ。すごく優しいのよ。笑顔も見せてくれるしさ。まあ、営業用スマイルなのかもしれないけど」 「へえ……」  胸の中でまた、なにかがコロリと転がる感じがする。それは角が尖っていて、胸をちくちく刺激する。 「けどさ、陽向と行くとさ。そうじゃないんだよね」 「えどういうこと?」  思わず隣を振り向く。桐島の瞳は相変わらず、上城の姿を探していた。 「上城さん、あたしと陽向が並んで仲よく話し始めると、なんかさあ、笑顔じゃなくなるんだよね」  それは一体、どういうことなのかと、問いかける顔になる。 「つまりさ、なんて言うか、不機嫌になるって言うか。冷淡になるって言うか。陽向はそう感じはしなかった?」 「いや……全然」  もしかして、自分は上城に嫌われているのか。 「で、それをメッセージアプリ使ってアキラさんに相談してみたんだよね。態度が変わるのは、あたしの思い違いなのかなって。そしたら、アキラさんが言うにはさ」 「うん」 「上城さん、妬いてるんじゃないかって!」  その言葉に、桐島は急に相好を崩した。今にも嬉しくて叫びだしそうに両手で頬をおおう。 「もしかしてさー、これって、脈ありなんじゃない?」 「えそれってどうゆこと」 「もー、ニブいわね、陽向は」  唇を尖らせて怒ってくる。 「つまり、上城さんは、あたしを気に入ってくれて、だからあたしに近づく陽向をライバル視し始めてるんじゃないかってアキラさんは言ってんの」 「なるほど……」  だったら俺、嫌われてんのかな、と急に不安になってくる。  しかし、考えてみれば、自分は初対面のときに怪我をしてしまったとはいえ、あられもない場所を彼に触らせてしまっていた。  普通なら、絶対に触りたくないはずの他人の急所である。それを治療のためとはいえまさぐらさせてしまった。よく覚えていないが、象の鼻の部分も手で除けさせてアイスパックを当ててもらった気がする。

ともだちにシェアしよう!