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第23話
陽向と桐島を確認して、形のいい眉を持ちあげる。少しの間、じっと眺めていたが、陽向の腕に桐島の手が絡んでいるのに冷たい視線を送ると、ふいと後ろを向いて奥の部屋へと引っ込んでいってしまった。
やっぱり、嫌われているらしい。あの顔は、明らかに嫌悪を示している。
「じゃあ、あたし、ボクササイズの申し込みしてくるから。ここでちょっと待ってて」
落ち込んだ陽向をおいて、桐島は受付へと駆けて行った。残された陽向は、フロアを行き来する人の邪魔にならないように、壁際へと身をよせて待つことにした。
壁には試合のポスターやジムでひらかれているさまざまな教室の案内が貼ってある。ボクササイズは、エアロビクスのように音楽にのって身体を動かす初級者向けグループエクササイズから、本格的に個別指導がつく上級者向けまでいくつかあるようだった。桐島は多分、初心者向けから始めるのだろう。
十五分ほど、ぼんやりと掲示板に貼られたポスターなど眺めて時間をつぶしていたら、奥からスポーツバッグをさげた上城が出てきた。
上城はシャワーを浴びてきたのか、髪が少し濡れていた。いつもはワックスで綺麗に整えられている短い黒髪が、今日はほとんど立ちあがっている。
無造作に乱れた短髪に、スポーツウェア。ふだんと違う、ラフな服装は彼の男らしさを引き立てていた。
陽向に気づくと、ふと目を眇める。そうしてから足早に近づいてきた。目のまえまで来ると、どうしてこんなところにいるのかというように不思議そうな顔をする。
「やあ」
「……こんにちは」
上城は、バーにいるときとは雰囲気が異なっていた。リング上で一戦交えてきたせいなのかもしれないが、ザイオンでの静かでクールなバーテンダー姿とは違う、スポーツ選手の持つ力強いオーラが感じられた。対峙していると、無用に威圧感を覚えてしまう。
陽向を見つめる目つきも、違っている気がした。それとも、そう感じるのはさっきの桐島の話で自分が嫌われていると気づいてしまったせいなのか。
「こんなとこでなにしてんの?」
少し首を傾げて見下ろしてくる。そっけない口調に、陽向はたじろいだ。しかし後ろは壁である。
「桐島の、付き添いで」
「付き添い?」
「彼女が、ボクササイズの教室に入会するっていうんで」
受付を指させば、上城は振り返って「へえ」と呟いた。
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