25 / 115

第25話

「やあ」  自分に向けるのと全く違う、綺麗に作られた笑みに陽向は目を見ひらいた。営業用スマイルなのかもしれないけれど、ぜんぜん態度が異なっている。 「偶然ですね。こんなところで会うなんて」  計画的にやってきたことは伏せて、桐島は笑顔で挨拶をした。 「あたし、ここのボクササイズに入会したんですよ」 「ああ、聞いたよ。俺、そっちにも時々手伝いに出てるから」  うわあ、本当なんですか嬉しい、と言う桐島は、実はそのこともアキラから聞いて知っているのだった。 「上城さん、今、練習終わったんですか? よかったら、これから食事にでも一緒に行きません? あたしたち夕食まだなんですよ」  積極的に誘いをかける桐島に、横の陽向も話をあわせてうんうんと頷いた。練習後の上城をつかまえて食事に誘うというのも計画のうちだった。 「いいけど、あんたも来んの?」  陽向に顔を向けて確認を取ってくる。その口ぶりが、まるで邪魔者を扱うようだったので、陽向はグサリと傷ついた。 「……いや。あの、俺は、お邪魔だったら、これで帰りますが」  その方が桐島も彼も喜ぶのかな、と思えば気持ちは一気に沈んだが、笑顔を無理に繕って提案した。 「なんで帰んの。一緒に来いよ」 「へ」 「ひとりだけ帰ろうとすんなよな」  意味不明の引きとめに、頭に疑問符がいくつも発生する。帰れって言ってるのか、帰るなって言ってるのか、どっちなのか。  戸惑っていたら、ぐいと腕を掴まれた。 「あんたも来んだったら、俺も行く、って言いたかったんだよ。誤解すんなよ」 「……あ、そうなんすか」  目を瞬かせながら返事をすれば、相手も、「うん」と納得する。意思疎通の難しい人だなと、掴まれた手の強さから陽向は感じた。  三人で、ジムを出てから、近くにある居酒屋へと移動した。店に入り、あいていた四人がけのテーブルに陽向と桐島が並んで座り、向かいの席に上城が腰かける。  揃ってビールを注文し、運ばれてきた料理をつつきながらジムでの出来事などを話題にした。

ともだちにシェアしよう!