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第26話
「上城さんはずっとアマチュアでボクシングをされていたんですか」
「親父がアマチュア選手だったから。俺もその影響で始めたんで」
「ボクシングって、確か体重で階級が分かれてるんですよね。だから階級落とすために減量とか大変だとか」
「ああ。俺が一番真剣にやってたのは高校の頃で、そのときのベストウェイトはウェルター級だった。食事は親父がメニュー組んでくれてたし、練習さえきちんとしてれば無理な減量は必要なかったよ」
「プロは目指さないんですか?」
桐島が上城のことを知りたいのか、色々と質問を振った。
「プロは興味ないから目指さない。それに店があるしな。あの店は死んだ親父が残したものだから、ちゃんと守っていきたんだ」
大ぶりのビールジョッキを傾けながら、上城が答える。今日は客とバーテンダーじゃないせいか、口調がいつもよりラフだった。
「バーテンダーの仕事も気に入ってるし。そっちの方の技術を磨きたいと思ってる。俺の親父も引退後はいいバーテンダーだったから」
だから、あのお宮通りに店を持って、そこを離れることなく維持しているのか。
「いいお店ですよね」
陽向が言うと、そのときばかりは上城が嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そう思う?」
「ええ」
切れ長の目を細めて、口元を持ちあげる。営業用スマイルとはまた別の魅力的な笑顔だった。思わず見惚れてしまうような。
吸いこまれそうな力のある目から逃れるため、陽向は慌てて俯いて、自分のジョッキに口をつけた。
「……あ。あたしちょっと、手を洗ってくる」
そうしていたら、指先を料理で汚した桐島が、横でバッグを手にして立ちあがる。
「悪い。ごめんね」
桐島は奥の席だったので、陽向は椅子を引いて自分の後ろを通してやった。
洗面所に消える後姿を見送っていると、上城も横目で彼女を見ていることに気がついた。
なにか考えるような様子で、通路を行く桐島を眺めている。視線に込められた意味を読み取ることはできなかったけれど、興味がなければ見たりしないんじゃないかと思えた。
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