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第28話
なにか伝えようとするかのように、虹彩の奥をのぞき込んでくる。しかしその意味はよくわからない。けれど自分の中からも、同じように熱が発生してくるのはわかった。
陽向は言葉を返すこともできず、魅入られたように相手の顔を凝視した。
上城が、陽向の瞳をつかまえたままやわらかく眼差しをほどく。そうすると、ほんの少しだけ笑ったような表情になった。
それを見たとたん、心臓がドクンと大きく跳ねた。太鼓でも耳元で叩かれたかのように、身体がびくりと慄く。
「か、上城さん、て」
「うん」
「お、男でも、大丈夫な人なんですか……?」
その問いに、上城は片眉だけを持ちあげて、不思議な笑みを保ったまま答えてきた。
「趣味にあってりゃ、どっちでも構わないよ」
どっちでも構わないってどういうこと? それって、どっちもイケるってこと?
正体不明の悪寒がぞわりと背筋にきて、身体が震えた。けれどその理由はやっぱりわからない。
陽向は反射的に目を伏せ、相手の攻撃から逃れるようにした。
「……」
しかしすぐにまた惹きつけられるように、目線をあげてしまう。相手は変わらずこちらに挑むような瞳を向けていた。陽向は挙動不審に目玉を動かし、そうして、やっぱりまた抗えない力に引っ張られるようにして、相手をちらりと見てしまった。
ものすごく男前の微笑みが、変わらずそこにあった。
摩訶不思議な怯えを感じて、内心の動揺を隠すため、へにゃっと強張った笑いを相手に投げてみる。
すると上城はちょっと目を瞠った。意外そうな顔をしながら、ゆっくりと口端を持ちあげる。陽向と視線を絡めたまま、大きくふたつ頷いた。
その仕草は、同意が取れて『了解』した、というようなサインに似ていた。
意味が全くわからないまま、陽向もつられてヒクリと笑う。
「ごめんね。待たせて」
そこに桐島が洗面所から戻ってきた。
「あ、ああ」
うわの空で返事をして、椅子を引いて桐島を通す。なにも知らない彼女は、席につくと先刻と同じように陽気に話と食事を再開し始めた。
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