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第30話 ライバル宣言
翌週から、桐島は月曜日の夜に、ボクササイズ教室に通いだした。
時折、メッセージアプリを通じて報告がなされてくる。楽しんで行っているようで、写真が添えられていることもあった。上城と一緒に撮ったものもある。ふたりでスポーツウェアを着てジムで練習している姿は胸をざわつかせたけれど、うまくいっているのならよかったと思うことにした。
あれから桐島には、数度ザイオンに飲みに誘われている。けれど陽向は用事を作って全部断っていた。なんとなく、上城に会うのがためらわれたからだった。
あの日、三人で居酒屋で飲んだあと、陽向は自分の住む学生マンションの1Kの部屋に帰って、ひとりベッドに横になって考えた。
――俺はどっちかって言うと、可愛い女の子よりも、可愛い男の方が好みだから。
上城はそう言って、意味深な瞳を自分に向けてきた。趣味にあっていればどっちでも構わないと、なんでもないことのように告白された。
けれど、陽向はよく考えて、あれは自分を誘ったわけではないのだと結論づけた。
なぜなら陽向は『可愛い男』ではないからだ。人には癒し系と言われることもあるが、それで可愛いと言われたことはないし、自分で思ったこともない。親にだって幼稚園の頃の写真にしか言われない。
上城はただ単に、自分の趣味の話をしただけではないのかという気がする。陽向が桐島を強引に売り込もうとしたから、ウザがって釘を刺すために。
それを誘われているなどと自分に都合のいい解釈をしてしまったら、俺は男にもモテると思い込んだ、とんだ赤っ恥のうぬぼれ野郎だ。
――脇腹がやわらかくて、からかいがいのあるようなね。
続けて言った、あの言葉。
瞳に込められた色は、冷静になって考えてみれば、ただからかっていただけとも思われる。陽向が嫌われているとも知らずに、何度も店に来ては憧れの眼差しを送っていたから、ちょっといじってやろうとしただけなのかもしれない。
そう考えれば彼の取った行動の全てが、納得できるような気がしてくる。まあ、きっとそうなんだろう。第一あんな恰好いい人が、自分などを好きになるわけがないし。
恋愛経験の乏しい陽向には、それが精一杯の自身で導きだすことのできる答えだった。
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