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第33話

 笑顔なのに沈黙という不思議な空気が間に流れた。 「えと、じゃあ、俺はこれで」  場の空気を読んで、陽向は挨拶だけしてふたりと別れることにした。 「うん、じゃあね」  桐島も引きとめず笑顔で手を振る。  陽向はそそくさと上城の脇を通りすぎて、後ろを振り返らないようにして歩きだした。  最初から最後まで、上城とは目をあわさなかった。彼がどんな表情でこっちを見ていたのかもわからなかった。  ふたりでいるところを邪魔したくはなかった。上城に、このまえのように「あんたも来ない?」と誘われたら桐島はきっとがっかりして陽向は居心地悪くなってしまうだろうし、かといって上城に「じゃあな」とそっけなく言われたりしたらそれはそれでなんだかショックな気がして、すぐに避けるようにしてサヨナラしてしまった。  ふたりが一緒にいる姿はとても似あっていて、普通のカップルのあるべき姿のようで、陽向は疎外感とも寂しさとも取れる奇妙な虚しさを感じてしまった。  空きっ腹はくうくう鳴って、なにか食べさせろと言ってきたけれど、食欲の方はすっかりなくなってしまい、陽向は明るい陽のさす通りをトボトボ歩いて時間よりずっと早めにバイト先についた。  バックヤードでチーズの入ったサンドイッチをもそもそ食べて、ペットボトルのコーラで流し込んで、昼すぎのバイトに立つ。  住宅街のコンビニは、土曜の午後はさほど混みはしない。商品の棚だしをしたり、レジに立ったりしながらぼんやりと数時間をすごした。  その間も、時折さっきのふたりの姿が目に浮かんできて、作業をする手がとまった。  なんでこんなに気になってしまうのかと、呆れながらもため息が出てしまう。桐島は上城と付きあいたいと言っていた。その願いが叶ったのなら祝福してやるべきだろう。  いいなあ、カッコいい彼氏。俺も欲しい――と考えて、なに血迷ったことを、と慌てて首を振った。  休憩を挟んで夕方七時までのアルバイトを、いつものルーチンワークで漫然と手先だけを動かしてすごす。あと一時間ほどであがりという頃、陽向はレジに立ち、フライドチキンとアイスクリームを買った学生の清算をして、レジスターにお金を入れた。  次の客がやってきて、カウンターにドン、と缶コーヒーが一本だけおかれた。陽向はうわの空のままで「百二十三円です。袋はご利用ですか?」と客の顔も見ずに尋ねた。

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