48 / 115
第48話
「ならやっぱ、今度の映画、一緒に来てくれる?」
「え? いいの」
「うん。あたしのこと売り込んで、上城さんをたきつけてよ。こんなイイ女だったら、逃がすのは惜しい、と思わせるようなさ」
「当て馬っすか」
「そうよ。出番よ、走ってよ」
目が据わった桐島にお願いされて、結局陽向は映画館に出向くことにした。
当て馬だから、彼女を取られるのが嫌だから、ふたりの仲を邪魔しに行く。それが月曜日の映画に行く理由だった。というか、どちらかと言えば言い訳だったのだが。
「ちゃんと来たんだ」
映画館のまえで待っていた上城が、陽向を見つけると微笑んできた。ばっくれなかったことを褒めるような、安心したような笑顔だった。それは営業用スマイルとは全く別の、もっと中身のこもった笑い方だった。
けれど、どういう意図で桐島を『喰っちまうぞ』などと脅してきたのだろう。最初から喰う気なら、陽向は邪魔なだけなはずなのに。
待ちあわせ場所には桐島も一緒にいた。いつもより可愛めの格好に、メイクもばっちり決まっている。
陽向はできる限り彼女を褒めたたえ、仲よく接するようにした。上城とは目をあわせないようにして。
それに桐島は満足そうだったけれど、反対に上城は氷のように冷淡になっていった。しかも陽向に対してだけ。
時折ふっと、なんで自分はこんなに冷たくされながらもふたりのために必死になってるんだと疑問に思ったりした。しかし憧れの上城と美人の桐島が、付きあうことになればふたりともハッピーになるじゃないか、それは自分にとっても幸せなことなんだと、無理矢理気持ちを納得させた。
ちょっと泣きたい気分になってしまったけど、これはきっと憧れの人に冷たくされて落ち込んでるだけなんだと自分を慰めながら。
しかし、月曜のレイトショーのその映画は散々だった。桐島が選んだ映画は感動系で、しかも悲恋が題材の不幸話だった。
陽向はこの手の映画が苦手だ。絶対に泣いてしまう。映画が始まるまでは、自分の当て馬としての立ち位置に注意がいっていたから気づかなかったが、上映開始から数分で、あ、これはヤバイ系だと気がついた。
ともだちにシェアしよう!