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第49話

 スクリーンからなるべく目をそらすようにして、話にも集中しないようにする。けれど、いつの間にかストーリーにのめり込んでしまい、主人公とその恋人が不幸のどん底に落ちていくと、もう登場人物らに感情移入がとまらなくなり、鼻をぐすぐす言わせ始めてしまった。  陽向の隣は通路で、反対側が桐島だった。その奥が上城である。彼女もハンカチを握りしめていたが、陽向にそっとポケットティッシュを差しだしてくれた。礼を言って受け取り、溢れる水分を静かにふき取る。しかしすぐに底が尽きてしまった。  話の展開が気になったけれど、もう流れ出る洟水と涙に耐え切れず、陽向は席を立つことにした。トイレに駆け込んで、トイレットペーパーをカラカラいわせながら涙と洟を拭う。  落ち着くのを待ってから個室を出て、洗面台で顔を洗い気持ちをすっきりさせた。情けないがこんなになっては、エンディングを自分の席で迎えるのは無理だろう。  ふたりには告げずにコッソリ帰ろうかなどと考えながらドアをあけて廊下に出たら、そこに上城が待っていた。  壁にもたれて腕を組んでいる。陽向はびっくりして立ちどまった。 「……なんで?」  陽向の顔をちらと見て、難しそうな顔をする。小さく肩を竦めて、ぼそりと言った。 「いつまでも戻ってこないから、また気分でも悪くなったのかと思って」  それで、わざわざ上映中だというのに抜けだしてきてくれたのか。  心配をかけているとは思いもよらなくて、胸がきゅうっと締めつけられた。 「いえ。……あの、違います」 「じゃあ、なんで」  わけを話すのは恥ずかしかったが、目と鼻が腫れて赤くなっているのをじっと見られて、誤魔化しようがないと思い正直に話した。 「……俺、ああいう感動系の話、ダメなんです。……すぐに泣くんで。普段はレンタルで観るようにしてるんですけど。今日は不意打ちだったから、心の準備もできていなくて」  上城は意外な理由をしらされたという顔になった。 「あの映画で泣けるのか。すげえな」 「……いやいや、可哀想な話だと思いません? 恋人や家族と離れ離れになって、飼ってる犬まで病気で死にそうになってるんですよ」  喋りながらまたストーリーを思いだして、鼻をぐずぐずさせてしまう。上城はそんな陽向を珍しい生き物でも見るように眺めてきた。 「まあ、俺は趣味じゃないから泣けないけど」

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