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第56話
取りだしてみれば、桐島からのメッセージが表示されている。なんだろうとひらいてみて、驚いた。
『上城さんに告った』
とある。それからすぐに続きがアップされた。
『けど、断られた』
カピバラが号泣しているスタンプが添えられている。
「え?」
画面を二度見して、斜めまえの男に目をあげた。
「なんで?」
上城は誰からなにが届いたのか承知している様子で、小さく肩を竦めて見せた。
「ケジメだよ。きちんと断らないと」
「けど、なんで?」
「最初から、彼女は俺の趣味じゃないって伝えたよな」
「……でも、彼女のこと、狙うって言ってたじゃないですか」
上城も冷酒を一気に半分ほど煽る。
「そう言わないと、はっきりわからないことがあったから」
「……」
意味不明の説明だった。
好きになってたんじゃなかったのか。だから狙ってたんじゃなかったのか。
「狙うって言ったのは、あんたにだけだから」
「俺にだけ?」
そう、というように頷く。
「あの子に対しては、気のあるそぶりをしたことは一度もない」
陽向は口をぽかんとあけたまま話を聞いた。
「店とジムでは、顧客のひとりとして応対しただけだし、シューズを一緒に買いに行ったのも、ジムのトレーナーに世話してやるように頼まれたからだよ」
「そんな……」
確かに桐島は、いつまでたっても上城がなびいてくれないと嘆いてはいた。それで自分も当て馬として駆りだされのだ。狙うという宣言は陽向に対してだけで、桐島本人には全く行動は起こしていなかったということなのか。
陽向が考えている間に、上城は残りの冷酒を飲みほした。
「これで、俺は彼女と他人に戻った。あんたは当て馬の役割を終えた。お互い、彼女のしがらみから解放されたわけだ」
グラスをおいて、テーブルに身をのりだしてくる。
「だから、もう自分のしたいようにしてもいいよな?」
確認を取るような言い方に、陽向は首を傾げた。どういう意味なのかよくわからないまま、思ったことを素直に口にだす。
「……いいんじゃないですか?」
その答えに、男は口角をあげた。理解できていない陽向の顔をじっと見つめてから、おもむろに言ってくる。
「なら喰ってもいい?」
「へ?」
ぐいと腕を引かれたと思ったら、顔が間近に迫ってきた。ほとんど息が触れあう距離で、上城が低く囁く。
「陽向」
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