56 / 115

第56話

 取りだしてみれば、桐島からのメッセージが表示されている。なんだろうとひらいてみて、驚いた。 『上城さんに告った』  とある。それからすぐに続きがアップされた。 『けど、断られた』  カピバラが号泣しているスタンプが添えられている。 「え?」  画面を二度見して、斜めまえの男に目をあげた。 「なんで?」  上城は誰からなにが届いたのか承知している様子で、小さく肩を竦めて見せた。 「ケジメだよ。きちんと断らないと」 「けど、なんで?」 「最初から、彼女は俺の趣味じゃないって伝えたよな」 「……でも、彼女のこと、狙うって言ってたじゃないですか」  上城も冷酒を一気に半分ほど煽る。 「そう言わないと、はっきりわからないことがあったから」 「……」  意味不明の説明だった。  好きになってたんじゃなかったのか。だから狙ってたんじゃなかったのか。 「狙うって言ったのは、あんたにだけだから」 「俺にだけ?」  そう、というように頷く。 「あの子に対しては、気のあるそぶりをしたことは一度もない」  陽向は口をぽかんとあけたまま話を聞いた。 「店とジムでは、顧客のひとりとして応対しただけだし、シューズを一緒に買いに行ったのも、ジムのトレーナーに世話してやるように頼まれたからだよ」 「そんな……」  確かに桐島は、いつまでたっても上城がなびいてくれないと嘆いてはいた。それで自分も当て馬として駆りだされのだ。狙うという宣言は陽向に対してだけで、桐島本人には全く行動は起こしていなかったということなのか。  陽向が考えている間に、上城は残りの冷酒を飲みほした。 「これで、俺は彼女と他人に戻った。あんたは当て馬の役割を終えた。お互い、彼女のしがらみから解放されたわけだ」  グラスをおいて、テーブルに身をのりだしてくる。 「だから、もう自分のしたいようにしてもいいよな?」  確認を取るような言い方に、陽向は首を傾げた。どういう意味なのかよくわからないまま、思ったことを素直に口にだす。 「……いいんじゃないですか?」  その答えに、男は口角をあげた。理解できていない陽向の顔をじっと見つめてから、おもむろに言ってくる。 「なら喰ってもいい?」 「へ?」  ぐいと腕を引かれたと思ったら、顔が間近に迫ってきた。ほとんど息が触れあう距離で、上城が低く囁く。 「陽向」

ともだちにシェアしよう!