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第74話 再びZIONへ
翌日、陽向は学校が終わるまで、落ち着かなくすごした。
講義の合間も暇さえあればスマホを取りだして、メッセージが来ていないかどうか確かめる。
上城からは、なにも送られて来ていなかった。
昨夜のことが気になって、あれから朝までほとんど眠れなかった。こちらからメッセージを送ろうかと幾度も思い、しかし途中でその手をとめてしまっていた。
なんと打ち込んでいいのかわからなかったからだ。
携帯を抱えたまま、あれこれと考え込む。そうして、陽向がこうやって悩んでいるということは、多分、向こうも同じように悩んでいるんじゃないかと思えた。
昨晩の警官の捨て台詞で、上城も嫌な気持ちになっているはずだろうから、きっと言いたいことはあるけれど、それをどうやって言葉にしたらいいのか迷っているんだろう。
だからお互い、相手の携帯を震えさせることができないでいるのだ。
陽向は学校帰りに、ザイオンに行こうと決めた。
本人に直接会って話を聞きたい。店が忙しいようだったら、終わるまで待って、それからふたりで話をしたかった。もし言い難いことがあるのなら、無理に尋ねるつもりはなかったが、顔を見て近くにいて安心したい。
講義が終わったあと、午後六時をすぎてから学校を出る。一か月まえに決まった就職先について担任と面談していたら、いつもより遅くなってしまった。けれどこの時間ならまだ、お宮通りも深夜のように酔っ払いが多く出入りしていることもないだろうからと、急いで駅裏へと向かう。
線路沿いに進み、もう見なれたアーケード街の入り口が視界に入ると、陽向はなぜか怖さではなく、郷愁にも似た奇妙な感傷を覚えた。
ここには上城がいる。この奥に、幾度も通ったバーがある。
そう思うと、最初は古くて薄汚れただけに見えた通りも、どうしてか味のある場所に思えてきた。
昭和の佇まいを残す通りは、寂れていて人通りも決して多くはなかったけれど、古さがあるからこそ前時代から引き継いできた大切なもののように感じられる。
好きになると、こんなにも見方が変わるものなのかと不思議な気持ちになった。
『お宮通り』と書かれた、入口に掲げられた年季の入った看板を見あげていると、後ろから「小池さん?」と名前を呼ばれた。
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