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第75話

 振り向けば、両手に買い物袋をさげたアキラが立っていた。 「あ、こんにちは」 「こんちは? もしかしてうちにくるところでした?」 「あ、はいそうです」  まえにもこの時間帯に、ここで買いだしのアキラと会ったことがある。陽向は彼に会えたことに感謝した。昨夜の畠山とのことがあったから、やっぱりちょっとひとりで通りに入るのはためらわれていたのだ。 「今日は、桐島さんは一緒じゃないんですか」 「はい、俺だけです」  連れ立って歩きながら、ザイオンへと向かう。通りの店はどこも開店準備に追われているようで、ドアをあけて掃除をしているスナックや居酒屋、仕込みをする焼き鳥屋などが続いていた。 「そっかあ。それは俺にしてみれば、ちょっと残念」  にこにこするアキラは、気さくで愛嬌のある顔立ちをしている。店では静かな上城とは対照的なムードメーカーだった。  ザイオンにつくと、アキラは鍵を取りだして樫の扉をあけた。プレートをクローズからオープンにかえて中に入る。店の中は暗く、アキラが壁際のスイッチを入れて明かりをつけた。 「あれ? 今日は上城さんは?」 「ああ。上城さんは、今、ここの通りの店主の集まりに参加しにいってます。この近くの店で、定例会です」  アキラがカウンター内に入り、買ってきたものを袋からだしながら説明する。陽向はとりあえず、カウンターのすみに席を取った。 「毎月一回、有志の店主らが定休日の店に集まって、三時頃から一時間ほどこの通りについて会合を持ってるんですよ。ここんところ、お宮通りも色々問題が多くなってきてるから、きっと今日の定例会も長引くんじゃないかな」 「問題が?」  手元を動かすアキラを話相手に、陽向は上城が戻るのを待つことにした。

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