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第76話
「ええ。ほら、ここって駅まえ再開発から取り残されてるでしょ。
駅まえは明るくて活気があるけど、こっちは裏通りで寂れていく一方で、そのせいかむこう側にはじかれた奴らがこっちに流れ込んできてるってまえに言いましたよね。小池さんらに絡んだような連中が」
チーズやサラミを冷蔵庫に入れて、チョコレートやナッツは棚にしまっていく。
「……ええ」
畠山のような奴らのことか。
「それで、ここいらの店主仲間で、対策をどうするかって話が出てるんですよ。警察も駅まえの浄化に忙しくて、こっちはいつもあとまわしの扱いになってるし」
キウイやライム、オレンジなどの果物は冷蔵庫に入れて、ミントの葉は洗ってザルにのせた。
「駅まえに大きなショッピングセンターができて、市長が街の活性化っていって人を呼ぶのに懸命になってて、それに警察署長も賛同してるもんだから、駅まえ優先で治安維持に力入れてるんです。
だからこんな小さな通りには手が回らないそうで。昔からここのことを知ってる俺らにしてみれば、なんだそれ、って感じなんですけど」
なにか、飲みますかと問われて、陽向はいつものハイネケンを注文した。
「アキラさんは、昔からここに住んでるんですか?」
「うん。俺んち、ザイオンの二軒隣。母親がスナックやってたから」
顎をしゃくって、右側の壁を示す。そちらにアキラの実家があるらしい。
「ここの店には小さい頃から遊びに来てたから、上城さんのことも、上城さんの親父さんのこともよく知ってます」
アキラが冷やしたグラスにビールを注いで、コースターにのせると陽向に差しだした。ロンググラスに綺麗なフロストがかかる。
「上城さんのお父さんって、……もう亡くなられているんでしたよね」
「ええ。そうですよ。見ます? 写真あるから」
そう言うと、アキラはレジの下から写真立てをふたつ取りだした。ひとつずつ、丁寧に手渡してくる。
陽向は両手でそれを受け取った。
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