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第96話
ふたりともいつの間にか口は大きくひらいて、互いの舌を探りあうように絡めていた。
「……まずいな」
上城が、吐息の合間に掠れた声をもらす。
「ここで押し倒すわけにはいかない」
蕩け始めた陽向の目をのぞき込んで、我慢が難しくなってきたというように渋い表情になった。
陽向の両頬を挟んでいた手を離して、腰の下に回す。
「えっ」
驚くと同時に、身体がくるりと後ろに反転した。足が床から浮きあがり、不安定な体勢に目を瞠る。
気がついたら上城に横抱きにされていた。
「え? ええ? ちょっ……」
慌てて相手の首に縋りつく。陽向を軽々と持ちあげた上城は、すたすたと廊下を歩きだした。リビングに入り、そこを突っ切って隣の部屋へと続く扉を足であける。
奥の部屋は寝室らしかった。六畳ほどのフローリングは、他の部屋と同様に綺麗に片づけられていて、シングルベッド以外はなにもなく殺風景だった。
けれど、窓だけは違っていた。
通りに面した大きな窓には、古いデザインのすりガラスがはまっていた。
氷をあらく削ったようなパターンはレトロな図柄で、そこからお宮通りの店の色とりどりの明かりが屈折して部屋に入りこんでいた。
暗い部屋は不思議な色あいに包まれている。窓にはカーテンもかかっていたが、今はあけ放たれていた。
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